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平成13年函審第11号
件名

貨物船第三辰丸漁船第五十八博清丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月12日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(工藤民雄、安藤周二、織戸孝治)

理事官
大石義朗

受審人
A 職名:第三辰丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:第五十八博清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第三辰丸甲板員

損害
辰丸・・・船首部に凹損
博清丸・・・右舷前部の外板及びブルワークに破口、浸水し沈没、全損
船長が溺水による横紋筋融解症(入院治療15日間)

原因
辰丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
博清丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三辰丸が、見張り不十分で、漂泊中の第五十八博清丸を避けなかったことによって発生したが、第五十八博清丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月20日10時30分
 北海道利尻島沓形港南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三辰丸 漁船第五十八博清丸
総トン数 199トン 4.68トン
全長 52.80メートル  
登録長   11.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット  
漁船法馬力数   90

3 事実の経過
 第三辰丸(以下「辰丸」という。)は、砂利などの輸送に従事する、船首上甲板に旋回式ジブクレーン1基を備えた鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首2.1メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成11年10月20日10時00分北海道利尻島の沓形港を発し、北海道天塩港に向かった。
 A受審人は、船橋当直をB指定海難関係人、甲板員及び自らの3人による単独当直で行っており、出航操船に当たったのち、10時20分沓形岬灯台から248度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、針路を160度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。
 定針したときA受審人は、出港配置を終えて昇橋したB指定海難関係人に船橋当直を行わせることにしたが、同人が単独当直の経験が長いことから、特に注意を与えるまでもないと思い、見張りを十分に行うよう指示することなく当直を引き継いで降橋した。
 こうしてB指定海難関係人は、単独で船橋当直に就いて同じ針路、速力で続航し、10時25分沓形岬灯台から222度1.9海里の地点に達したとき、正船首1,500メートルのところに、右舷側を見せて漂泊状態の第五十八博清丸(以下「博清丸」という。)を視認でき、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、前路に支障となる他船はいないと思い、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま進行中、10時30分沓形岬灯台から204度2.4海里の地点において、辰丸は、原針路、原速力のまま、その船首が博清丸の右舷前部に後方から65度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人及びB指定海難関係人は、博清丸との衝突に気付かずに航海を続けて天塩港に入港したのち、砂利を積載して石狩湾港に向け航行中、電話連絡を受けて天塩港に引き返し、調査により博清丸との衝突を知った。
 また、博清丸は、汽笛を有しないFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、たこいさり漁の目的で、同日06時00分沓形港を発し、同港南西方沖合の漁場に向かった。
 ところで、博清丸のたこいさり漁は、立縄釣漁業の一種で、浮き樽に水深より少し長く延ばした縄を結び付け、その先に重りの付いた、いさりと称するガラス玉に4本の針を付けた仕掛けを海中に投入して流し、浮き樽の動きを見て、たこが掛かったとき同樽を取り込み、船首を風に立てて漂泊しながら揚縄機により縄を巻き上げてたこを捕獲するもので、流し縄中も揚縄中も行動が自由で操縦が制限されるようなものではなかった。
 C受審人は、06時20分ごろ沓形港南西方2.5海里付近の水深約67メートルの漁場に至って、たこいさり漁を開始し、浮き樽23個を流して操業を続けた。
 10時20分C受審人は、前示衝突地点で機関のクラッチを中立とし、南西方に向首して漂泊していたとき、右舷船尾方1.7海里に南下する辰丸を初認したものの、間もなく仕掛けにたこが掛かったので、左舷側の揚縄機を使用してゆっくりと縄の巻き上げを開始し、同時25分船首が225度に向いていたとき、辰丸が右舷船尾65度1,500メートルとなり、その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、揚縄作業に気をとられ、辰丸に対する動静監視を行わなかったので、同船が自船を避航せずに接近していることに気付かず、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中、博清丸は、船首を225度に向けたまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、辰丸は、船首部に凹損を生じ、博清丸は、右舷前部の外板及びブルワークに破口を生じて浸水し、間もなく付近で沈没して全損となった。またC受審人は、海中に投げ出されたあと浮いてきた救命胴衣を着けて浮き樽につかまり漂流中、捜索に当たっていた僚船に発見され救助されたが、溺水による横紋筋融解症と診断され、15日間の入院治療を受けた。

(原因)
 本件衝突は、北海道利尻島の沓形港南西方沖合において、南下中の辰丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の博清丸を避けなかったことによって発生したが、博清丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 辰丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対して見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、同当直者が、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、沓形港を出港して同港南西方沖合を航行中、無資格のB指定海難関係人に船橋当直を行わせる場合、見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、B指定海難関係人が単独当直の経験が長いことから、特に注意を与えるまでもないと思い、見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の博清丸を避けないまま進行して衝突を招き、辰丸の船首に凹損を、また博清丸の右舷側前部の外板及びブルワークに破口を、それぞれ生じさせて同船の沈没を招き、海中に投げ出された博清丸船長が横紋筋融解症を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、沓形港南西方沖合において、たこいさり漁の漁具を投じて漂泊中、南下する辰丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、その後仕掛けにたこが掛かったので、揚縄作業に気をとられ、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続け、辰丸との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、単独で船橋当直に当たり、沓形港南西方沖合を南下中、前路の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって、主文のとおり裁決する。 


参考図
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