(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月15日22時55分
岩手県
ヶ埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二天将 |
漁船第五萬栄丸 |
総トン数 |
498トン |
19トン |
全長 |
71.55メートル |
26.75メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
573キロワット |
3 事実の経過
第二天将(以下「天将」という。)は、建設資材の輸送に従事する鋼製貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、積荷の目的で、空倉のまま、船首2.10メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成11年7月15日14時10分宮城県石巻港を発し、青森県むつ小川原港に向かった。
A受審人は、20時45分岩手県釜石港南東方の沖合で昇橋し、前直者から引き継いで当直に就き、法定灯火を表示し、霧模様で視程1海里未満ないし500メートルの視界制限状態であったので、視界の状況に応じて霧中信号を自動吹鳴したり止めたりし、レーダーのレンジを6ないし12海里に適宜切り換えてレーダーによる見張りをしながら三陸沿岸沖合を北上した。
22時36分半A受審人は、
ヶ埼灯台から163度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点で、針路を009度に定め、安全な速力にすることなく、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により進行した。
定針したとき、A受審人は、12海里レンジのレーダーで前路に散在する漁船の映像を認めるとともに船首輝線の少し左側6海里のところに第五萬栄丸(以下「萬栄丸」という。)の映像を初めて探知したが、左舷を対して替わるものと思い込み、レーダーによる萬栄丸の動静監視を十分に行わず、その後、更に霧が濃くなり、視程が100メートルばかりに狭められた中を続航した。
A受審人は、22時49分少し前萬栄丸の映像が左舷船首1度2.0海里となり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然レーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、これに気付かないまま、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
22時54分少し過ぎA受審人は、レーダーでほぼ正船首に萬栄丸の映像を認め、衝突の危険を感じて機関を停止し、汽笛をもって長音を吹鳴し、手動操舵に切り換えて右舵30度として回頭中、同時55分わずか前、左舷側至近に萬栄丸の灯火を認めたがどうすることもできず、22時55分
ヶ埼灯台から058度1.7海里の地点において、天将は、速力が7.0ノットとなり、059度に向首したとき、その船首が萬栄丸の右舷船首部に前方から55度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約100メートルで、付近には、南に流れる0.8ノットの海流があった。
また、萬栄丸は、はえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同年7月11日15時00分岩手県大槌港を発し、翌12日06時北海道襟裳岬南方35海里の漁場に至って操業を始め、同月15日15時10分さめ3トンを漁獲して操業を終え、同漁場を発して帰途についた。
B受審人は、発航操船後、甲板員に当直を任せ、降橋して休息をとり、19時00分陸中黒埼灯台から034度18.4海里の地点で昇橋し、甲板員から当直を引き継ぎ、上下二段となっている操舵室の、その上部において当直に当たり、法定灯火を表示し、機関を回転数毎分1,250の半速力前進にかけ、11.5ノットの速力で、三陸沿岸沖合を南下した。
20時00分B受審人は、霧模様となって視程1海里未満ないし500メートルの視界制限状態となったが、霧中信号を行わずに進行し、21時25分半閉伊埼灯台から029度9.6海里の地点に至り、機関回転数を毎分1,100に減じて10.3ノットの速力で進行した。
22時16分半B受審人は、閉伊埼灯台から094度4.0海里の地点に達したとき、針路を184度に定め、いか釣り船の漁火が増えてきたので、機関回転数毎分1,000の8.3ノットに減じ、その後、更に霧が濃くなり、視程が100メートルばかりに狭められた中を、自動操舵により進行した。
22時46分少し前B受審人は、
ヶ埼灯台から034度2.7海里の地点に達したとき、3海里レンジのレーダーで散在する漁船の映像を認めるとともに右舷船首3度3海里のところに天将の映像を初めて認めたが、天将の映像が操業をしている漁船の中の1隻で、霧に反射する集魚灯の明かりを視認してから避航すればよいと思い、レーダーによる天将の動静監視を十分に行わず続航した。
B受審人は、22時49分少し前天将の映像が右舷船首4度2.0海里となり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然レーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、これに気付かないまま、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
22時55分わずか前B受審人は、右舷船首至近に天将のマスト灯を視認し、上部操舵室の床に設けられた開口部を経て下部操舵室に降り、操舵を手動に切り換えて左舵一杯としたとき、萬栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、天将は、球状船首と左舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、萬栄丸は、右舷船首部に破口と右舷側防舷材等に損傷を生じて浸水し、のち修理された。また、B受審人が、3週間の通院加療を要する頭部打撲などを負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、霧のため視界が著しく制限された
ヶ埼沖合において、北上する天将が、安全な速力としなかったばかりか、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した萬栄丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、南下する萬栄丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した天将と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、霧による視界制限状態の
ヶ埼沖合を北上中、レーダーにより左舷船首方に萬栄丸の映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷を対して替わるものと思い込み、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、萬栄丸と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かないで、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き、天将の船首部に擦過傷及び萬栄丸の右舷船首部に破口などをそれぞれ生じさせ、また、B受審人に3週間の通院加療を要する頭部打撲などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、霧による視界制限状態の
ヶ埼沖合を南下中、レーダーにより右舷船首方に天将の映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同映像が操業をしている漁船の中の1隻で、霧に反射する集魚灯の明かりを視認してから避航すればよいと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、天将と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かないで、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文平成12年12月14日仙審言渡
本件衝突は、第二天将が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第五萬栄丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。