(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月26日19時12分
愛知県豊川
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船鈴石丸 |
漁船第2まるたか丸 |
総トン数 |
1.28トン |
1.1トン |
全長 |
7.10メートル |
7.85メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
29キロワット |
36キロワット |
3 事実の経過
鈴石丸は、専ら愛知県豊川における白魚の刺網漁に従事する、船外機付きのFRP製漁船で、船長Bが1人で乗り組み、喫水不詳のまま、操業の目的で、平成10年2月26日18時35分ごろ、豊川の河口から3.4キロメートル(以下、豊川河口から上流に向かっての距離を「キロ」で表示する。)の左岸にある、豊橋市三ツ相町の係船地を発し、4.8キロにある同市北島町の漁場に向かった。
B船長は、18時42分ごろ漁場に至り、高さ1.2メートルの支柱の先端に取り付けた、バッテリーを電源とする40ワットの作業灯を点灯して予め投網してあった刺網の揚網作業を開始し、19時09分ごろ同作業を終え、同灯を消灯して自船の存在を示す灯火を表示することなく漁場を発し、係船地に向けて下航を開始した。
ところで、豊川は、愛知県渥美湾の豊橋港と接続しているものの、3.9キロ付近にJR東海道新幹線豊川橋梁が、その250メートル上流の4.2キロ付近にJR東海道本線、名鉄名古屋本線及びJR飯田線の各橋梁が架かっていて、航洋船が航行することができなかったが、航洋船以外の船舶であっても、各橋梁の橋脚巾が25メートルないし50メートルで、水深等の関係で航行できる橋脚間が限定されていた。
B船長は、発進後、右舷船尾操縦席に座って操舵操船に当たり、豊川の右岸から50メートルばかりのところをやや湾曲した同岸に沿って下航し、19時11分半4.0キロを示す右岸距離標識(以下「4キロ標識」という。)から094度(真方位、以下同じ。)270メートルの地点において、針路をJR飯田線橋梁の右岸から3本目と4本目との橋脚の間に向く250度に定め、9.0ノットの対地速力で、依然、灯火を表示しないまま進行した。
定針したときB船長は、右舷船首2度300メートルのところに第2まるたか丸(以下「まるたか丸」という。)が存在し、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、同船が灯火を表示していなかったので、これを視認することができないまま続航するうち、19時12分4キロ標識から115度150メートルの地点で、鈴石丸は、原針路、原速力のまま、その右舷側中央部に、まるたか丸の右舷船首部が前方から4度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、月齢は29日であった。
また、まるたか丸は、渥美湾や豊川で刺網漁に従事する船外機付きのFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、豊川の白魚漁の目的で、船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日19時9分半3.4キロの豊橋市三ツ相町の係船地を発し、4.8キロの同市北島町の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、灯火として、揚網中にのみ使用する高さ1.25メートルの支柱先端に取り付けた、発電機を電源とする笠付き100ワットの作業灯のほか、乾電池6個を電源とする懐中電灯を所持していたが、他船と出会うことはないと思い、これらを点灯せず、自船の存在を示す灯火を表示することなく豊川を上航した。
A受審人は、右舷船尾の操縦席の前で片膝を突き左手で船外機の操縦ハンドルを握った姿勢で操舵操船に当たり、19時10分4キロ標識から244度580メートルの地点において、針路をJR東海道新幹線橋梁の右岸から2本目と3本目との橋脚の間に向く074度に定め、機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、JR東海道新幹線橋梁下を通過したのち、19時11分半4キロ標識から193度120メートルの地点に達したとき、左舷船首2度300メートルのところに豊川を下航する鈴石丸が存在し、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、同船が灯火を表示していなかったので、これを視認することができないまま続航中、同時12分わずか前、ほぼ船首方の至近距離に鈴石丸の船首部付近を認めたが、何をする暇もなく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、鈴石丸は右舷側中央部から船尾部にかけて凹損したほか船外機に亀裂を生じ、まるたか丸は右舷船首部に擦過傷を生じ、B船長(昭和16年10月30日生、四級小型船舶操縦士免状受有)が頭部に外傷を負い、のち脳挫傷による多臓器不全で死亡した。
(原因)
本件衝突は、夜間、両船が豊川を航行する際、下航中の鈴石丸が、自船の存在を示す灯火を表示しなかったことと、上航中のまるたか丸が、自船の存在を示す灯火を表示しなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、豊川を航行する場合、懐中電灯を点灯するなどして自船の存在を示す灯火を表示すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、他船と出会うことはないと思い、自船の存在を示す灯火を表示しなかった職務上の過失により、鈴石丸に自船の存在を示さないまま進行して同船との衝突を招き、まるたか丸の右舷船首部に擦過傷を、鈴石丸の船外機に亀裂及び右舷側中央部から船尾部にかけて凹損を生じさせ、B船長に頭部外傷を負わせ、のち同人が死亡するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文平成12年8月25日横審言渡
本件衝突は、両船が無灯火のまま河川内をほとんど真向かいに行き会う態勢のとき、鈴石丸が針路を右に転じなかったことと、第2まるたか丸が針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。