理由
海難審判法は、同法第46条第1項において、「理事官又は受審人は、地方海難審判庁の裁決に対して、命令の定めるところにより、高等海難審判庁に第二審の請求をすることができる。」、及び同条第2項において、「補佐人は、受審人のため、独立して第二審の請求をすることができる。但し、受審人の明示した意思に反してこれをすることはできない。」旨規定し、理事官、受審人及び受審人のためにする補佐人に第二審請求権を認めている。
しかしながら、指定海難関係人については、同法施行規則第77条第1項において、「勧告を受けた指定海難関係人は、理事官に弁明書を差し出すことができる。」旨を規定するにとどまり、第二審の請求をすることができることを認めた規定はない。
そもそも、海難審判庁が、審判手続において指定海難関係人を関与させるのは、主として、その者に対し勧告の裁決を行うについて、事前に弁明防御の機会を与えるという趣旨に基づくものであって、指定海難関係人の審判手続上の地位は、公益の代表者である理事官と同一に論ずることはできない。
また、海難審判庁が海難原因について、その結論を明らかにしている原因解明裁決は、海難発生の原因を明らかにするにとどまるものであって、一種の事実確認にすぎず、たとえ裁決中で不利益な事実が認定されている場合であっても、それにより指定海難関係人に何らかの義務を課したりその者の権利行使を妨げたりするものではない。
このことは、最高裁判所昭和52年(行ツ)第42号同53年3月10日第二小法廷判決の判示するところであり、指定海難関係人には第二審請求権が認められず、同じく最高裁判所昭和57年(行ツ)第118号同58年7月15日第二小法廷判決においても、指定海難関係人は第二審の請求をすることができないと判示されている。
したがって、指定海難関係人は、海難原因の判断に不服を有するからといって、その変更を求めて第二審の請求をすることのできないことは明らかであり、その者が選任した補佐人にも第二審の請求権のないことは補佐人の性格上当然である。
指定海難関係人株式会社S造船所選任の村上補佐人がなした本件第二審の請求は、その手続が海難審判法の規定に違反しているものであるから、同法第48条を適用し、本件第二審の請求を棄却する。
よって主文のとおり裁決する。