(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月7日08時10分
高知港
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第三十六上星丸 |
起重機船飛竜 |
総トン数 |
19トン |
1,895トン(換算) |
全長 |
13.00メートル |
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登録長 |
11.83メートル |
61.00メートル |
幅 |
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22.00メートル |
深さ |
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4.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
588キロワット |
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3 事実の経過
第三十六上星丸(以下「上星丸」という。)は、専ら台船型起重機船飛竜(以下「飛竜」という。)の押航に従事する鋼製押船で、A受審人ほか3人が乗り組み、港湾工事用資材積込の目的で、飛竜の船尾ノッチ部に船首をかん合し、船首1.0メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成11年9月7日08時00分高知県高知港第5号ふ頭第3岸壁を発し、港奥の桟橋に向かった。
飛竜は、前部に350トン型旋回式ジブクレーンを装備し、同クレーンの定格総荷重の使用時に、ジブの全長が54.8メートル、同作業角度が30度から80度、ジブ底面の甲板上の高さが3.4メートルとなるもので、作業員3人を乗せ、船首尾共に1.6メートルの等喫水で離岸した。
ところで、高知港の北部は、ほぼ南北方向に高知航路が設定され、同航路北口の南方340メートル、同370メートル及び同420メートルのところに、それぞれ四国電力株式会社設置の送電線(以下順に「北送電線」、「中央送電線」及び「南送電線」という。)が横切っていた。
北、中央、南各送電線は、順に、電線数が上段中段下段各2本の6本、3本及び6本で、懸垂部の高さがメートル単位で47、45及び50となり、北、中央両送電線が6,600ボルト用、南送電線が6万ボルト用のもので、海図第110号(高知港)と書誌第101号(本州南・東岸水路誌)に、各送電線と関係各鉄塔の位置及び高さ、並びに各送電線の懸垂部の高さが明記されていた。
これより先、A受審人は、転係地点に向け航行計画を立てたが、高知航路南口付近で浦戸大橋下を航過したので、他に航行の支障となるものはないと思い、予定針路線上の各送電線の状況が分かるよう、作業打ち合わせ書類中の海図第110号写を精査するなど、水路調査を十分に行うことなく、海面上の高さ50メートルに飛竜のジブ頂部を引き上げた状態のまま、離岸準備に取り掛かった。
A受審人は、離岸と同時に高知港御畳瀬灯台から020度(真方位、以下同じ。)1,410メートルの地点で、針路を356度に定め機関をほぼ全速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で手動操舵により、前方頭上の送電線に気付かずに進行中、08時10分少し前南送電線下を通過したものの、08時10分高知港御畳瀬灯台から008度2,840メートルの地点において、飛竜のジブ頂部が、中央送電線に次いで、北送電線にも当たった。
当時、天候は曇で風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
その結果、飛竜のジブ頂部に塗装剥離を生じ、中央送電線3本を切断して、同線の西側鉄塔上部及び東側鉄塔ストラップを折損し、のち同線の設備は撤去され、北送電線は下段2本を切断して、のち張り替えられた。また、切断された各電線が海面付近に垂れ下がり、関係各地区への出入りがほぼ3時間禁止された。
(原因)
本件送電線損傷は、高知港に着岸中、転係地点に向け航行計画を立てる際、水路調査が不十分で、起重機船のジブ頂部を上げたまま離岸し、送電線に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、高知港に着岸中、転係地点に向け航行計画を立てる場合、予定針路線上の各送電線の状況が分かるよう、作業打ち合わせ書類中の海図第110号写を精査するなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、高知航路南口付近で浦戸大橋下を航過したので、他に航行の支障となるものはないと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、送電線の存在に気付かず、海面上の高さ50メートルに飛竜のジブ頂部を引き上げた状態のまま離岸し、送電線に向首進行して、同頂部が送電線懸垂部に当たる事態を招き、飛竜の同頂部に塗装剥離を生じ、中央送電線3本を切断して、同線の西側鉄塔上部及び東側鉄塔ストラップを折損し、北送電線下段2本の切断を招き、切断された各電線が海面付近に垂れ下がって、関係各地区への出入りをほぼ3時間禁止させる事態を生じさせた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。