(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月18日07時20分
関門港下関区
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船やまぶき |
総トン数 |
941トン |
全長 |
77.90メートル |
幅 |
11.50メートル |
深さ |
5.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
やまぶきは、平成5年7月に進水した燃料油などの輸送に従事する鋼製油送船で、船尾楼甲板上に2層の船橋甲板室を配置していた。
やまぶきの船尾係船設備は、船尾端から約3メートル前方の船尾楼甲板上に、油圧モーター駆動の係船機が2基左右に並べて据え付けられ、左舷側係船機は、巻取荷重4トンで、油圧モーターの左舷側に胴径、幅及びつば径がそれぞれ35.6センチメートル(以下「センチ」という。)、46センチ、130センチのロープリールが2胴備えられていた。
左舷側係船機のロープリールは、駆動軸からクラッチを介して駆動され、各ロープリールの船首側に付設されたクラッチレバーの操作により、個別または2胴同時の運転が選択できるようになっており、係船索を収納する際は、左舷側から見て左回りに巻き取るようになっていた。
また、両係船機の油圧モーターの操縦は、各油圧モーターの船首側至近にレバーハンドルがそれぞれ設けられ、同ハンドルの操作により運転できるようになっていたが、同6年5月に係船機の操作を船尾側からも行えるよう、各ハンドルに長さ2.24メートル外径13ミリメートル(以下「ミリ」という。)の鉄棒(以下「操縦棒」という。)を取り付け、油圧モーター越しに船尾方向へ渡していた。
やまぶきは、A受審人及び操機長兼甲板員(以下「操機長」という。)Bほか6人が乗り組み、空倉のまま、積荷役待機と乗組員の休養のため、船首1.50メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、同11年1月16日17時10分関門港下関区の第2突堤16号岸壁に出船右舷付けで着岸し、船首及び船尾からそれぞれ直径60ミリの化学繊維製係船索4本ずつを取り係留した。
A受審人は、昭和57年R社(以下「R社」という。)に入社以来、同社所属の4隻に乗り組んだのち、平成10年11月4日やまぶきに船長として乗り組み、船尾係船設備の上面をボート甲板が覆う構造となっていたことから、船橋から直接船尾係船機付近での作業を監督することができず、また、B操機長が入社して日が浅く、やまぶきに乗り組んで以降、離岸作業の経験が3回ほどで、同操機長にとって慣れた作業ではなかったことから、同操機長及び他の乗組員に対して危険作業を行うときには、作業に応じた適正な服装をし、保護具を着用することや慌てず確実に作業を行うことなどを口頭で注意していた。
やまぶきは、同11年1月18日積荷の目的で、山口県宇部港に向かうこととし、07時15分A受審人が船橋で出港用意を令して乗組員を各配置に就け、離岸作業が開始された。
A受審人は、右舷側のウイングで指揮をとり、船首及び船尾の各係船索を外させるにあたり、船尾楼甲板の配置に就いたB操機長が係船機を使用しての離岸作業に不慣れであったが、以前に注意を与えたので、改めて指示するまでもあるまいと思い、係船索の収納は船尾配置の司厨員兼甲板員(以下「司厨員」という。)と2人で行うことなど、安全な収納方法について指示することなく、4本の船尾係船索のうち、スプリングライン1本を残し、スターンライン2本とブレストライン1本を岸壁のビットから司厨員に外させた。
こうして、やまぶきは、船尾楼甲板上において、保護帽と防寒着を着用して安全靴を履いたB操機長が、1人で左舷側の係船機を使用してスターンラインとブレストライン各1本の収納を2胴のロープリールにより同時に巻き始め、ブレストラインの巻取りを終えて左舷側ロープリールのクラッチを脱とし、操縦棒で右舷側ロープリールのみを低速としてスターンラインを収納中、同ロープリールの片寄りを直そうとしたものか、同ラインを手で滑らせていたとき、船尾端から上がってきた同ライン先端の直径約0.9メートルのアイに踏み出した左足を入れ、同足が絡まれて身体ごと持ち上げられ、07時20分下関岬ノ町防波堤灯台から真方位226度870メートルの地点において、同ロープリールに同ラインとともに巻き込まれた。
当時、天候は曇で風力1の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、岸壁上で係船索を外して船尾配置に戻る途中の前示司厨員の叫び声で事故発生を知り、船尾楼甲板に急行して運転中の係船機を停止し、乗組員に指示してB操機長の身体に絡んだ係船索を切断させ、同操機長をロープリールから解放するとともに救急車などの手配に当たった。
その結果、B操機長(昭和19年6月18日生)は、通報によって到着した救急車の隊員により死亡が確認され、のち頭蓋骨及び頸骨粉砕骨折並びに肋骨骨折による内臓破裂と検案された。
(原因)
本件乗組員死亡は、関門港を山口県宇部港に向けて出航する際、離岸作業時の安全措置が不十分で、係船機を使用して1人で係船索を収納中の乗組員が、同索先端のアイに足を絡められ、同機ロープリールに巻き込まれたことによって発生したものである。
離岸作業時の安全措置が不十分であったのは、船長が、係船索の安全な収納方法について指示しなかったことと、同作業を行う乗組員が、係船索の安全な収納方法をとらなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、関門港を山口県宇部港に向けて出航する場合、係船機を取り扱う乗組員が離岸作業に慣れていなかったのであるから、係船索の収納は2人で行うことなど、安全な収納方法について指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、以前に注意を与えたので、改めて指示するまでもあるまいと思い、係船索の安全な収納方法について指示しなかった職務上の過失により、係船索に足を絡ませた乗組員を係船機ロープリールに巻き込ませる事態を招き、死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。