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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年神審第15号
件名

油送船第八大島丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年6月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、阿部能正、黒田 均)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第八大島丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
過給器の損傷、ロータ軸やタービン側軸受室等に損傷

原因
主機排気ガスタービン過給器の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の排気ガスタービン過給機の整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月15日15時30分
 大阪港

2 船舶の要目
船種船名 油送船第八大島丸
総トン数 198.33トン
全長 40.05メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 294キロワット
回転数 毎分750

3 事実の経過
 第八大島丸(以下「大島丸」という。)は、昭和55年12月に竣工し、主にC重油の輸送に従事する油送船で、I社製の6M−HTS型ディーゼル機関を主機として装備し、主機の船尾側架構上に、R社製のVTR−160型と称する軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を備えていた。
 過給機は、排気入口囲、タービン車室、ブロワ車室及び軸流タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸などで構成され、同軸は、タービン側軸受室の玉軸受とブロワ側軸受室の玉軸受によって支持されていた。一方、各玉軸受の潤滑は、軸受室内の油だめに入れられた潤滑油による自己給油式で、ロータ軸の軸端に取り付けられたポンプ円板によって給油されるようになっており、潤滑油の油量及び色調は、各軸受室の蓋に設けられた透明の油面計ガラスを通して点検できるようになっていた。
 また、過給機排気入口囲のロータ軸貫通部には、主機の排気ガスがタービン側軸受室内へ侵入するのを防止するため、排気入口囲にラビリンスブッシュが、ロータ軸にラビリンスパッキンを埋め込んだ軸ラビリンス部がそれぞれ設けられていて、軸ラビリンス部にはブロワ側の圧縮空気の一部がシールエア用通路を通って供給されるようになっていた。
 A受審人は、平成4年9月から機関長として大島丸に乗り組み、月間130時間ほど主機を運転しながら1人で機関の運転及び保守管理に当たっており、過給機については、3箇月ごとに各軸受室の潤滑油及びブロワ側エアフィルタの取替えを行い、2年ごとの主機の整備時にタービン側及びブロワ側の各玉軸受を新替えしていたが、その際、ラビリンスブッシュの点検やシールエア用通路の掃除などの整備は行っていなかった。
 ところで、A受審人は、同11年4月上旬ごろ、1週間ほど前に取り替えたばかりの過給機タービン側軸受室の潤滑油が変色するとともに油面計ガラスも汚損し始め、その後、同油及び油面計ガラスの汚損が急速に進行するのを認め、シールエア用通路が閉塞気味になるなどして、主機の排気ガスがタービン側軸受室に侵入しているおそれのある状況となっていたのに、同月20日にプロペラ軸の取替え工事で造船所に入渠した際、潤滑油を早目に取り替えていれば大丈夫と思い、タービン側及びブロワ側各軸受室の潤滑油の取替えを行っただけで、過給機の開放・整備は行わなかった。
 大島丸は、同月23日に出渠して主機及び過給機の運転を続けているうち、排気ガスの侵入によってタービン側軸受室内の潤滑油が著しく汚損・劣化し、タービン側玉軸受の潤滑が阻害される状況となっていた。
 こうして、大島丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、C重油220キロリットルを積載し、船首2.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同11年5月15日14時25分神戸港を発して大阪港に向かい、主機の回転数を毎分640の全速力前進にかけて航行中、潤滑阻害されていた過給機タービン側玉軸受が破損してロータ軸が振れ回り、同日15時30分大阪南港南防波堤灯台から真方位317度2,000メートルの地点において、煙突から黒煙を排出するとともに過給機が異音を発して主機の回転数が低下した。
 当時、天候は曇で風力3の西南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 船橋で見張りに当たっていたA受審人は、機関室から異音がするとともに煙突から黒煙が出ているのを認め、直ちに機関室に急行して主機を停止した。
 その結果、大島丸は、過給機の損傷で主機の運転が不能となり、引船に曳航されて大阪港に引き付けられ、修理業者による過給機の点検により、タービン側、ブロワ側両軸受が損傷していたほか、ロータ軸やタービン側軸受室等にも損傷が判明し、のち損傷部品新替えなどの修理が行われた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機過給機の保守管理に当たり、タービン側軸受室内の潤滑油の汚損が進行するようになったのち、造船所に入渠した際、過給機の整備が不十分で、タービン側軸受室内に排気ガスが侵入する状態のまま過給機の運転が続けられ、著しく汚損・劣化した潤滑油により、タービン側玉軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機過給機の保守管理に当たり、タービン側軸受室内の潤滑油の汚損が進行するのを認めたのち、プロペラ軸の取替え工事で造船所に入渠した場合、主機の排気ガスがタービン側軸受室に侵入しているおそれがあったから、過給機を開放してラビリンスブッシュを点検するとかシールエア用通路を掃除するなど、過給機の整備を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、潤滑油を早目に取り替えていれば大丈夫と思い、軸受室内の潤滑油を取り替えただけで、過給機の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、タービン側軸受室内に排気ガスが侵入する状態のまま過給機の運転を続け、著しく汚損された潤滑油によりタービン側玉軸受の潤滑阻害を招き、玉軸受のほかロータ軸やタービン側軸受室などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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