(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月26日19時00分
北海道根室半島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船龍宝丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
17.41メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
回転数 |
毎分1,350 |
3 事実の経過
龍宝丸は、昭和59年4月に進水した、さけ・ます流し網漁業、さんま棒受け網漁業及び刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、主機として平成4年2月にG社が製造したS6R2F−MTK−2型と呼称するディーゼル機関を備え、軸系には同月にI社が製造したMGN86DLX−1型と呼称する逆転減速機(以下「逆転機」という。)を装備していた。
逆転機は、同年4月に主機とともに換装されたもので、前進用及び後進用クラッチ、減速歯車や歯車式の直結油圧ポンプなどを内蔵しており、駆動軸の前後両側を円すいころ軸受(以下「軸受」という。)で支え、同軸の前端には主機クランク軸のゴム継手と接続する駆動軸継手を、後端には同ポンプの歯車軸スプライン部(歯先円径15.8ミリメートル、クロムモリブデン鋼製)をそれぞれ結合していた。主機の動力は、逆転機底部の油だめから直結油圧ポンプに吸引された作動油が前後進切換弁を介して前進用あるいは後進用クラッチに供給されることにより前進、中立及び後進が切り換わり、前進時には駆動軸、前進用クラッチ、前進用小歯車、大歯車、推力軸及びプロペラ軸へ、後進時には駆動軸、逆転駆動歯車、逆転被動歯車、後進用クラッチ、後進用小歯車、大歯車、推力軸及びプロペラ軸へとそれぞれ伝達するようになっていた。
龍宝丸は、毎年4月末出漁前には鉄工所による機関の整備作業が行われており、5月から7月末までがさけ・ます流し網漁業、8月から11月末までがさんま棒受け網漁業、12月から翌年4月までが刺し網漁業の操業をそれぞれ繰り返していた。
A受審人は、平成9年5月から龍宝丸のさけ・ます流し網漁業及びさんま棒受け網漁業の漁期に機関長として乗り組み、機関の運転保守にあたった。
ところで、逆転機の軸受は、経年磨耗などによる耐用年数があるので、整備基準として4年間の運転を経過するごとに新品と交換することが取扱説明書で指示されていた。
しかし、A受審人は、同12年4月末出漁前に例年どおり鉄工所による機関の整備作業を行う際、逆転機の軸受が換装以来定期検査等の際に交換されないまま整備基準を大幅に超えて使用されていたものの、同機の運転状態には特に異状がないから大丈夫と思い、同軸受の交換措置をとるなどの整備を行わなかったので、出漁後に運転を続けているうち、同軸受が著しく磨耗して駆動軸の軸心が偏移し、繰返し曲げ応力により直結油圧ポンプの歯車軸スプライン部の材料が疲労する状況となった。
こうして、龍宝丸は、A受審人ほか8人が乗り組み、さけ・ます流し網漁業の操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、越えて6月19日16時00分北海道花咲港を発してロシア連邦200海里経済水域内の漁場に向かい、翌々21日20時00分目的の漁場に至って操業を続け、同月26日19時00分北緯45度59分東経152度39分の地点において、主機を回転数毎分1,000にかけ投網中、逆転機の直結油圧ポンプの歯車軸スプライン部がついに疲労破壊し、作動油の供給が途絶して前進用クラッチが滑った。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、船尾甲板で作業中、船体が進まない旨を船長から知らされて機関室に急行し、逆転機の作動油圧力がないことを認め、主機を停止して逆転機の直結油圧ポンプを開放したところ、歯車軸スプライン部が折損していたので、運転不能を船長に報告した。
龍宝丸は、漁業監視船により北海道花咲港に曳航され、逆転機を精査した結果、駆動軸、駆動軸継手、前進用小歯車及び同クラッチなどの損傷が判明し、損傷部品を中古品と交換する応急措置をとり、操業に復帰して漁期終了後に修理された。
(原因)
本件機関損傷は、逆転機の軸受の整備が不十分で、同軸受が著しく磨耗して駆動軸の軸心が偏移し、繰返し曲げ応力により直結油圧ポンプの歯車軸スプライン部の材料が疲労したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、出漁前に鉄工所による機関の整備作業を行う場合、逆転機の軸受が整備基準を大幅に超えて使用されていたから、同軸受の交換措置をとるなどの整備を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、逆転機の運転状態には特に異状がないから大丈夫と思い、同軸受の交換措置をとるなどの整備を行わなかった職務上の過失により、出漁後に同軸受が著しく磨耗して駆動軸の軸心が偏移し、繰返し曲げ応力により直結油圧ポンプの歯車軸スプライン部が疲労破壊する事態を招き、同軸のほか駆動軸、駆動軸継手、前進用小歯車及び同クラッチなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。