(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月26日00時30分
安芸灘
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十五北扇丸 |
総トン数 |
661トン |
全長 |
63.80メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
809キロワット |
回転数 |
毎分650 |
3 事実の経過
第十五北扇丸(以下「北扇丸」という。)は、昭和62年7月に進水したセメントばら積輸送に従事する鋼製貨物船で、主機として、R社が製造した6DLMB−26FS型と呼称するディーゼル機関を装備し、動力取出軸で揚荷用空気圧縮機を駆動できるようになっており、操舵室に主機の遠隔操縦装置と警報装置を備えていた。
主機の冷却は間接冷却方式で、その海水系統は、船底吸入弁からこし器を経て直結の海水ポンプにより吸引して加圧された海水が、空気、潤滑油、クラッチ潤滑油及び清水の各冷却器を冷却したのち、船外に排出されるようになっていた。そして、海水ポンプが作動不能となったときは、同ポンプ吐出側に接続された配管を経由して雑用兼消防ポンプから送水できるようになっていた。
海水ポンプは、主機の前端下部に取り付けられ、クランク軸に装着された補機駆動歯車により駆動され、本体ケーシング内にインペラを有し、同インペラがインペラ軸にキー止めされたうえインペラナットで結合され、同軸が軸受箱に組み込まれた2個の玉軸受により支持されていた。
ところで、機関メーカーでは海水ポンプのインペラ軸を支える玉軸受について、平均的な使用時間を7,000ないし10,000時間とし、これを目安として取り替えるよう、取扱説明書に記載していた。
北扇丸は、進水以来、2年毎の検査工事の都度、主機の開放整備が行われており、平成9年8月下旬ごろ中間検査工事で入渠した際、全シリンダのシリンダカバーとピストン、過給機などとともに海水ポンプが開放され、インペラ軸の玉軸受やメカニカルシールの取替えが行われ、同工事終了後、1箇月あたり約500時間の運転が行われていた。
A受審人は、同10年11月に機関長として北扇丸に乗り組み、航海中の機関室当直を4時間3直制として、当直時は入直前、入直2時間後及び当直交替前に機関室内を巡回するほか、操舵室において当直にあたり、機関室内を巡回する際、過給機軸受などは聴音棒により点検していたが、主機前端の床下約60センチメートル(以下「センチ」という。)に位置する海水ポンプの軸受箱については、聴音棒による定期的な点検を行っていなかったので、同ポンプの玉軸受が経年使用により衰耗し、異音を発する状況となっていることに気付かなかった。
北扇丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、空倉のまま、船首0.64メートル船尾3.33メートルの喫水をもって、同11年2月25日17時00分岡山県岡山港を発し、福岡県苅田港に向かい、主機を回転数毎分約560にかけて航行していたところ、海水ポンプの玉軸受が著しく衰耗する状況となったが、20時から機関室当直に就いた岡受審人が、23時30分過ぎに巡回した際、冷却海水圧力及び冷却清水温度の異常を認めなかったので、一等機関士に当直を引き継ぎ、そのまま運転が続けられた。
こうして、北扇丸は来島海峡航路を航行中、海水ポンプの玉軸受が損傷し、インペラ軸の振動からインペラナットが緩んで脱落するとともにキーが損傷してインペラが空回転し、冷却不良となって次第に冷却清水温度が上昇したものの、同温度上昇警報装置が不調となっていて警報が発せられず、翌26日00時30分来島梶取鼻灯台から真方位275度1.3海里の地点において、操舵室で当直中の一等機関士により、清水膨張タンク空気抜き管から漏洩した水蒸気が機関室天窓から立ち上っていることが発見され、主機出力を減じる措置がとられた。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、自室にいたところ、当直航海士から報告を受け、機関室へ赴き、同室内に水蒸気が漂い、冷却清水温度が上昇していることを認め、一等機関士とともに雑用兼消防ポンプを始動して冷却の措置をとり、シリンダライナからの漏水を懸念して船長に点検のための投錨仮泊を要請し、01時30分船舶が輻輳(ふくそう)する航路筋を避けて梶取鼻西南西方沖合に投錨したのち、クランク室内を点検したところ、シリンダライナからの漏水はなかったが、同室内に大量の海水が侵入しており、海水ポンプを開放点検してインペラとインペラナットの脱落のほか、玉軸受、オイルシール及び同ポンプ歯車などが損傷していることを認め、運転不能と判断して援助を要請した。
北扇丸は、引船に曳航(えいこう)されて造船所に引き付けられ、主機を開放した結果、前示海水ポンプ及び補機駆動歯車の損傷のほか、シリンダライナのOリングが硬化していることが認められ、のちそれらが取り替えられた。
(原因)
本件機関損傷は、主機付冷却海水ポンプの点検が不十分で、同ポンプのインペラ軸を支える玉軸受が衰耗したまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関室当直で同室内を巡回するにあたり、主機付冷却海水ポンプのインペラ軸を支える玉軸受の衰耗状況を判断できるよう、聴音棒を使用して同ポンプ軸受箱の定期的な点検を行わなかったことは本件発生の原因となる。
しかしながら、以上のA受審人の所為は、冷却海水圧力計の指度に異常が認められなかったこと及び同ポンプ玉軸受の取付け位置が点検しづらい状況にあった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。