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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成10年門審第117号
件名

漁船第十二順洋丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年5月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(相田尚武、佐和 明、原 清澄)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:第十二順洋丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
R株式会社 業種名:造船業

損害
3番シリンダクランクピン亀裂と焼損剥離、同ピン軸受メタル焼損

原因
主機クランクピンの点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機クランクピンに亀裂が残されたまま復旧され、同亀裂が進展拡大して同ピン軸受部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 造船所が、焼付きを生じた主機の修理を行った際、クランクピンの点検を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成9年12月22日18時30分
 大韓民国済州島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十二順洋丸
総トン数 44.62トン
全長 29.45メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 220キロワット
回転数 毎分655

3 事実の経過
 第十二順洋丸(以下「順洋丸」という。)は、昭和57年7月に進水した大中型まき網漁業に灯船として従事する鋼製漁船で、主機として、H社が製造した6DS1M−21FS型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室から主機の回転数及びクラッチ付逆転減速機を遠隔操縦できるようになっていた。
 主機は、各シリンダに船首側から順番号が付けられ、機関メーカーからの出荷時、定格出力625キロワット同回転数毎分900(以下「毎分」を省略する。)の原機に負荷制限装置を付設し、計画出力220キロワット同回転数655として受検・登録されたが、就航後に同制限装置が取り外され、航海中の全速力前進の回転数を720までとして運転されていた。
 主機のクランク軸は、ピン部の径が165ミリメートル(以下「ミリ」という。)で、表面に高周波焼入れを施した一体型の鍛造品であった。そして、クランクピン軸受メタルは、軟鋼製裏金にアルミ合金軸受を圧着して接合した薄肉完成メタルが使用され、斜め割りのセレーション合わせとなっている連接棒大端部に組み込まれ、4本の連接棒ボルトによりクランク軸に連結され、同ピン軸受部の潤滑は、直結の潤滑油ポンプにより加圧された潤滑油が、ジャーナル部を経て通油されていた。
 また、主機の保護装置は、運転中に軸受油圧力が1.5キログラム毎平方センチメートル(以下圧力は「キロ」で示す。)以下に低下すると警報装置が作動し、同圧力が1.2キロ以下になると作動する危急停止装置は付設されていたが、過回転防止装置は設けられていなかった。
 ところで、順洋丸は、平成9年9月7日対馬南方海域の漁場を航行中、操舵室でクラッチが中立に操作されたとき、調速機から燃料噴射ポンプに至るリンク機構が固着気味であったためか、調速機の作動が伝達されず、クラッチは脱となったが、燃料制御が不能となって過回転を生じ、3個のシリンダライナとピストン及び3番シリンダクランクピン軸受部などに焼付きを生じ、修理工事のために同日入渠し、指定海難関係人R社(以下「R社」という。)において、主機の開放が行われた。
 R社は、同部機関課が修理工事を担当し、実際の作業は外注の協力会社に行わせ、焼付きを生じていた3番シリンダを含む3個のシリンダのピストンを抜き出し、軸受メタルの焼付きにより変色と強い当たりのみられた3番シリンダクランクピン部と2個のジャーナル部を油砥石(といし)により削正研磨のうえ、同ピン部についてカラーチェックを行ったが、亀裂(きれつ)の有無について十分な点検を行わなかったことから、同ピン部の下側に亀裂が残されていたことに気付かないまま、全数のクランクピン軸受及び主軸受メタルの新替えなどを行い復旧した。
 A受審人は、進水時から機関長として乗り組み、機関の保守管理に当たり、R社において開放修理が行われた際、損傷状況を確認したのち修理工事を一任し、同工事後の航海中は、機関室当直を1人で行い、当直中は1時間ごとに同室の見回りを行っていたものの、クランク室周りの発熱状況について、同室ドアを触手点検する程度であったので、クランクピンに繰り返し作用する曲げ及びねじり応力により、3番シリンダクランクピンの亀裂が進展し、同ピン軸受部に局部的な金属接触を生じて発熱する状況となったが、このことに気付かないまま、運転を続けていた。
 順洋丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、船首1.40メートル船尾3.05メートルの喫水をもって、同9年12月9日08時00分僚船とともに長崎県生月港を発し、大韓民国済州島西方沖合の漁場に至り、夜間操業を繰り返していたところ、前示クランクピンの亀裂がさらに拡大して表面が部分的に剥離(はくり)し、同ピン軸受部の潤滑が阻害されるようになった。
 こうして、順洋丸は、同月22日16時00分A受審人により主機が始動され、回転数を690にかけて魚群探索中、3番シリンダクランクピン軸受部に焼付きを生じ、18時30分北緯34度26分東経124度19分の地点において、潤滑油圧力低下警報装置に続いて危急停止装置が作動し、主機が停止した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上にはやや波があった。
 A受審人は、後部船員室にいたところ、主機回転数の低下に気付いて機関室へ赴き、主機の停止後、潤滑油量、同油こし器及び同油ポンプなどを点検したが異常なく、再始動したものの、再び潤滑油圧力が低下し始め、3番シリンダから異音が生じたことから、同シリンダクランクピン軸受部を開放し、同ピンの亀裂を発見して運転不能と判断し、僚船に曳航(えいこう)を要請した。
 順洋丸は、同27日R社に引き付けられ、主機を開放した結果、3番シリンダクランクピンの亀裂と焼損剥離、同ピン軸受メタルの焼損及び同シリンダ連接棒の曲損がそれぞれ判明し、のち損傷部品が取り替えられた。
 R社は、前示クランクピンの削正研磨修理時に、亀裂の残されていたことが焼付きの原因と判明したことから、今後は亀裂を見落とすことのないよう、削正研磨時及びその後のカラーチェックなどの検査時に、亀裂の有無について、入念な点検を行うことを協力会社を含めて指示し、同種事故の再発防止対策を講じた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機クランクピンに亀裂が残されたまま復旧され、同ピンに曲げ及びねじり応力が繰り返し作用して同亀裂が進展拡大し、同ピン軸受部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 造船所が、焼付きを生じた主機の修理を行った際、クランクピンの点検を十分に行わず、同ピンに亀裂を残したまま復旧したことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 R社が、焼付きを生じた主機の修理を行った際、クランクピンの砥石による削正研磨を行ったのち、亀裂の有無について十分な点検を行わず、同ピンに亀裂を残したまま復旧したことは、本件発生の原因となる。
 R社に対しては、本件後、クランクピンに残された亀裂を見落とすことのないよう、削正研磨時及びその後のカラーチェックなどの検査時に、入念な点検を行うよう協力会社を含めて指示するなど、同種事故の再発防止対策を講じている点に徴し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。  





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