(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月16日07時10分
東京湾
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第五宇徳丸 |
総トン数 |
296.55トン |
全長 |
41.00メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
回転数 |
毎分420 |
3 事実の経過
第五宇徳丸(以下「宇徳丸」という。)は、昭和54年10月に進水した、東京湾内の各港間において重油の輸送に従事する油タンカーで、主機として株式会社Gが製造したMU623CGHS−6型と称するディーゼル機関を装備していた。
主機は、トランクピストン型で、一体鋳造されたシリンダブロックの左舷側にカム室を設けて、吸気弁、排気弁及び燃料噴射ポンプを駆動するカム軸を収めており、船首側から順にシリンダ番号が付されていた。
主機のカム軸は、鍛鋼材を削り出した一体型で、船首側にカム軸歯車が、各シリンダ毎に排気カム、吸気カム及び燃料カムが、また船尾側には潤滑油ポンプ駆動歯車がそれぞれキー止めされ、7箇所でカム軸受によって支えられていた。
カム軸受は、合わせ面を垂直方向とした二つ割りの青銅鋳物製で、軸方向長さが、カム軸歯車の直後を支える1番では109ミリメートル(以下「ミリ」という。)、2番から7番までは60ミリで、カム軸を抱いてブロック状になった外形が軸受台のくぼみに収められ、鋳鉄製押さえ金物と鋼製ボルトで固定されていた。また、1番には呼び径16ミリのボルト2本が、2番から7番までは呼び径22ミリのボルト1本がそれぞれ使われ、各ボルトの回り止めとして座金が折り曲げられていた。
ところで、主機は、年間2,400時間ほど運転され、経年摩耗によってカム軸とカム軸受との隙間が増加し、カム軸が回転中に偏心して大きくたわむようになっていた。また、同軸受が、ボルトで片持ち状に締め付けられた押さえ金物を介して押さえ付けられていたことから、主機の微振動の影響を受けてカム軸受の合わせ面や押さえ金物及び軸受台との接触面に、経年のフレッチング摩耗を生じており、ボルトの締付けが緩むおそれがあった。
A受審人は、平成10年6月に機関長として乗船し、運転と整備の全般に携わっていたところ、同年9月入渠して主機のピストン抜き整備を行ったとき、カム室のカバーを開いてカム軸受のボルトを1箇所だけレンチで締め付けてみたが、同ボルトに緩んでいる様子を認めなかったので、他の軸受の状況を確認しなかった。
宇徳丸は、その後主機のカム軸受の合わせ面や締付面のフレッチング摩耗が進行してボルトの締付力が低下し、いつしか3番カム軸受の押さえ金物のボルトが回り止めを越えて緩み、カム軸の偏心量が過大になって5番燃料カム付近に曲げ応力が集中し、同軸が疲労して同カム後端のキー溝部に亀裂(きれつ)を生じた。
A受審人は、平成11年9月定期検査のために入渠し、整備と点検を行ったが、前年にカム軸受の締付けに異状を認めなかったので大丈夫と思い、主機のカム室を開放してカム装置の点検をすることなく、同軸受が摩耗して隙間が増大したうえ、3番カム軸受の締付けが緩んでいることに気付かなかった。
こうして、宇徳丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、C重油520キロリットルを積載し、船首3.3メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成12年3月16日06時30分京浜港川崎区を発し、主機を回転数毎分380にかけて千葉港千葉区に向かっていたところ、07時10分東京湾アクアライン風の塔灯から真方位046度3.2海里の地点において、主機のカム軸に生じていた亀裂が進展して同軸が折損し、潤滑油ポンプが停止して潤滑油圧力低下警報が吹鳴した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹いていた。
A受審人は、運転音の変化に気付いて機関室に急行し、主機のシリンダヘッドカバーを外したところ、6番シリンダの弁腕が動いていなかったので、カム軸の異状と判断して主機を停止した。
宇徳丸は、主機が運転不能となってえい航を要請し、来援した引船によって京浜港川崎区に引き付けられ、精査の結果、3番カム軸押さえ金物とボルトが脱落し、カム軸が5番燃料カム後端のキー溝部で破断しており、のち同軸が取替え修理された。
(原因)
本件機関損傷は、定期検査のために入渠し、整備と点検を行った際、主機のカム装置の点検が不十分で、カム軸とカム軸受との隙間が増大したうえ、同軸受合わせ面などがフレッチング摩耗して軸受押さえ金物のボルトが緩んだまま主機の運転が続けられ、カム軸の偏心量が過大になってキー溝部に曲げ応力が集中し、同部に亀裂を生じたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、定期検査のために入渠し、整備と点検を行う場合、主機のカム軸受等の摩耗が進行していないか判断できるよう、カム室を開放してカム装置を点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、前年にカム室を点検してカム軸受の締付けに異状を認めなかったので大丈夫と思い、カム室を開放してカム装置を点検しなかった職務上の過失により、カム軸とカム軸受との隙間が増大したうえ、同軸受合わせ面などがフレッチング摩耗して軸受押さえ金物のボルトが緩んでいることに気付かないまま主機の運転を続け、カム軸の5番燃料カム後端のキー溝部に亀裂を生じさせる事態を招き、同軸を折損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。