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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年函審第1号
件名

漁船第三十五幸永丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年5月22日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、織戸孝治)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第三十五幸永丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
クランクピン軸受、連接棒、クランク軸、カム軸及び過給器などの損傷

原因
主機潤滑油系統の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機油受の潤滑油量の点検及び警報装置の作動確認がいずれも不十分で、潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月20日04時00分
 北海道襟裳岬北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五幸永丸
総トン数 9.7トン
全長 17.85メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 257キロワット
回転数 毎分2,000

3 事実の経過
 第三十五幸永丸(以下「幸永丸」という。)は、平成7年4月に進水した、さけ・ます流し網漁業、さんま棒受け網漁業及び刺し網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として昭和61年8月にN社が製造した6KH−UT型と呼称するディーゼル機関を備え、主機遠隔操縦装置及び計器盤が操舵室に設けられており、同機の各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
 主機の潤滑油系統は、油受から吸引管下端部のハの字形の吸込口を介して直結歯車式の潤滑油ポンプに吸引された油が、油こし器、油冷却器、油温度調整弁を経て主管に至り、油圧力調整弁で5.0ないし6.0キログラム毎平方センチメートルに調圧されて主軸受及びクランクピン軸受の系統と、ピストン、カム軸、動弁注油、燃料噴射ポンプ及び過給機などに分岐し、各部を潤滑あるいは冷却した後クランク室底部に落下し油受に戻っていた。油受の潤滑油量は、クランク室の左舷側中央下方に差し込まれた検油棒で点検するようになっていて、検油棒の上限目盛が46リットルの標準油面及び下限目盛が20リットルの最低油面にそれぞれ相当するものであった。また、主機は、警報装置が計器盤に組み込まれ、主管の潤滑油圧力が0.5キログラム毎平方センチメートル以下に低下すると潤滑油圧力低下警報が警報ブザー及び警報灯で発せられるようになっており、同盤面には警報ブザースイッチが装着されていた。
 A受審人は、幸永丸に就航以来船長として乗り組み、操船のほか機関の運転保守にあたり、例年5月から6月までがさけ・ます流し網漁業、7月末から11月までがさんま棒受け網漁業、12月から翌年3月末までが刺し網漁業に従事するもので、平成10年3月末の操業を終えた際に鉄工所に依頼して主機の整備を行い、その後操業を再開して月間に合計30リットルの潤滑油を補給しながら1箇月を経過するごとに新油と取り替え、同機の運転を繰り返していた。
 幸永丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、同11年7月31日さんま棒受け網漁業を開始し、北海道周辺の漁場で操業後、宮城県及び岩手県沖に南下して操業を続けていたが、北海道羅臼港沖が豊漁との情報を得て、北海道花咲港に向け回航の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、越えて11月19日09時40分岩手県宮古港を出航した。
 ところが、A受審人は、宮古港の出航にあたり操舵室から主機を遠隔操作で始動する際、それまでの運転により油受の潤滑油量が消費されて補給を要する状態であったが、同機の運転が無難にできると思い、同油量を点検しなかったので、その状態に気付かなかった。
 幸永丸は、宮古港を出航後、主機を回転数毎分1,800にかけて航行し、23時ごろ北海道襟裳岬沖に達したところで、燃料油補給などのため、北海道十勝港に寄せることとなった。
 A受審人は、十勝港に向けて針路を転じた後、操舵室で航海当直を引き継いだが、計器盤の警報ブザースイッチの状態など警報装置が作動するようになっているか確認しなかったので、同スイッチが切れていることに気付かなかった。
 こうして、幸永丸は、A受審人が単独で操船して主機の運転を続けているうち、油受の潤滑油量が消費されて不足し、船体が動揺した際に吸引管下端部の吸込口頂面にたまたま生じていた亀裂が露出して潤滑油ポンプが空気を吸い込み、潤滑油圧力が低下し、潤滑油圧力低下警報が発生して警報灯が点灯したものの警報ブザーが鳴らないまま、潤滑が阻害されて4番及び6番シリンダのピストンとシリンダライナが焼き付き、翌20日04時00分広尾灯台から真方位146度4.9海里の地点において、同機が異音を発し停止した。
 当時、天候は晴で、風力3の西風が吹き、海上にはうねりがあった。
 A受審人は、操舵室で異音に気付いて機関室に急行し、ターニングを試みたが果たせず、主機の運転を断念した。
 幸永丸は、僚船により十勝港に曳航され、主機を精査した結果、他シリンダのピストン、シリンダライナのほか主軸受、クランクピン軸受、連接棒、クランク軸、カム軸及び過給機などの損傷が判明し、新機関と換装された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機油受の潤滑油量の点検が不十分で、同油量が不足して潤滑油ポンプが空気を吸い込み、潤滑油圧力が低下したこと及び警報装置の作動確認が不十分で、潤滑油圧力低下警報が発生した際に警報ブザーが鳴らず、潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、出航にあたり主機を始動する場合、同機油受の潤滑油量が運転に伴い消費されて不足しないよう、同油量を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機の運転が無難にできると思い、同機油受の潤滑油量を十分に点検しなかった職務上の過失により、潤滑油を補給しないまま運転し、同油量が不足して潤滑油ポンプが空気を吸い込み、潤滑油圧力が低下して潤滑が阻害される事態を招き、ピストン、シリンダライナのほかクランク軸などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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