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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成12年長審第74号
件名

漁船漁協丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年4月18日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(河本和夫、亀井龍雄、森田秀彦)

理事官
弓田

受審人
A 職名:漁協丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主機全シリンダのピストン及びシリンダライナにかき傷

原因
冷却清水温度の監視不十分

主文

 本件機関損傷は、冷却清水温度の監視が不十分で、主機が過熱したことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月20日11時30分
 長崎県相浦港入口付近

2 船舶の要目
船種船名 漁船漁協丸
総トン数 14トン
全長 19.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 294キロワット
回転数 毎分1,800

3 事実の経過
 漁協丸は、昭和59年2月に進水した、漁獲物の運搬に従事するFRP製漁船で、主機として、R社が製造した6LAAK−DT型機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 主機のピストンは、アルミ合金製で、潤滑油主管から分岐してピストン冷却ノズルから噴射される潤滑油によって冷却され、潤滑油主管の潤滑油の標準圧力が4.5ないし5.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)で、潤滑油圧力低下警報の作動設定値が2キロであった。
 主機の冷却清水系統は、膨張タンク付きの清水冷却器から清水ポンプによって吸引加圧された清水が、シリンダブロック、シリンダヘッド、排気マニホールドを順に冷却したのち温調弁にて清水冷却器入口側と清水ポンプ吸入側に分岐して循環し、排気マニホールド出口温度の標準値が摂氏75度と85度(以下、温度については摂氏を省略する。)の間とされており、冷却清水温度上昇警報の作動設定値が95度であった。
 主機の冷却海水系統は、ゴムインペラ式の海水ポンプによってシーチェストから吸引加圧された海水が、空気冷却器、清水冷却器及び潤滑油冷却器を順に冷却したのち船外に排出されるようになっていた。
 主機の計器盤は、操舵室の操縦席前方にあって操船中容易に監視でき、同計器盤には回転数、潤滑油圧力計及び冷却清水温度計の各計器を備え、潤滑油圧力計には3から6キロの範囲に緑色のマークが施され、冷却水温度計には60から100度の範囲に緑色のマーク及び90から120度の範囲に赤色のマークが施されていた。
 漁協丸は、長崎県平漁港から同県相浦港への鮮魚運搬に従事しており、往復の航海時間が約4時間の航海を1箇月に15航海ほどで、年間の主機運転時間が1,000時間未満と少なく、主機は平成7年9月に各熱交換器の掃除も含めて開放整備が施行された。
 A受審人は、平成11年6月船長として乗り組み、主機の取扱いにあたっていたもので、乗船後主機の潤滑油と潤滑油こし器エレメントとを取り替えており、平素から主機始動前に冷却清水量及び潤滑油量を点検し、始動後は冷却海水が吐出されていることを確認し、運転中は潤滑油圧力計が約6キロ、冷却清水温度計が約82度でともに緑色マーク内にあり、主機停止時潤滑油圧力計が約3キロを指したとき警報が作動することを確認していた。
 漁協丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、鮮魚1.7トンを積み、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水で、平成11年8月20日09時30分平漁港を発し、相浦港に向かった。
 A受審人は、09時40分主機回転数を全速力の毎分1,800とし、10時30分ごろ潤滑油圧力計が約6キロ、冷却清水温度計が約85度といずれも正常値であることを確認し、その後相浦港入港に備えて手動操舵によって進行した。
 こうして漁協丸は、島の多い相浦港入口付近を進行しているとき、海水ポンプが異物を吸い込んで吸入側が閉塞し、冷却清水温度が急速に上昇したが、A受審人が見張りと操舵に専念していて同温度計を十分に監視していなかったのでこのことに気付かないまま続航中、11時30分牛ケ首灯台から真方位258度1.9海里の地点において、冷却清水温度上昇及び潤滑油圧力低下の各警報が作動した。
 当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、警報が作動したので直ちに主機回転数を毎分550の微速まで下げ、機関室に向かおうとしたとき、主機オイルミスト抜きから潤滑油が噴出しているのを認め、操舵室に戻って主機の計器盤を確認したところ、冷却清水温度計が100度以上、潤滑油圧力計が約3キロを指していたので、さらに主機回転数を毎分500の停止回転まで下げて入港着岸した。
 この結果、主機全シリンダのピストン及びシリンダライナにかき傷を生じ、全クランクピン軸受メタルが異常磨耗したが、のち修理された。

(原因の考察)
1 漁船保険保険金支払請求書写に添付の報告書に、清水冷却器及び潤滑油冷却器の 冷却管が詰まり、海水循環が阻害されて焼損したものと推定する旨の記載があるの で、この点について検討する。
 損傷写真(23枚分)写によると、清水冷却器の冷却管は、総数152本中異物で閉塞した管が31本でその他の管はスケールの付着もなく、閉塞管の割合は20.4パーセントである。潤滑油冷却器の閉塞管の割合は清水冷却器よりさらに少ない。
 冷却海水流量について主機メーカーでは、各冷却器及び海水管の汚れや詰まり、海水ポンプゴムインペラの摩耗などによるポンプ効率の低下を考慮して、必要容量の2倍程度の余裕をもたせており、20.4パーセントの海水流量減少では清水冷却機能に問題なかったものと考えられる。
 このことはA受審人の当廷における、「出港後1時間は冷却水温度が標準値内であったことを確認しており、その後急に上昇したものと思う。海水の流量は本件前と修理後とを比較してもその差がわからないほどである。」旨の供述と一致する。
 したがって、海水ポンプが異物を吸い込んで吸入側が閉塞し、冷却清水温度が急速に上昇して主機が過熱したと推認するのが妥当である。
2 受審人の所為とのかかわりについて
 A受審人が冷却清水温度の監視を十分に行っていれば、冷却清水温度の急上昇に気が付くことができ、直ちに主機を停止することで本件の発生を防止できたと考えられるが、本件発生の1時間前には点検して正常であることを確認していること及びその後相浦港入港前で島が多い海域を操船中で、警報が正常に作動したとき直ちに主機回転数を下げる処置をとっていることを考慮すれば、A受審人の職務上の過失とするまでもない。

(原因)
 本件機関損傷は、主機全速力で相浦港に向けて進行中、冷却清水温度の監視が不十分で、海水ポンプが異物を吸い込んで吸入側が閉塞し、同温度が急速に上昇して主機が過熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が主機全速力で相浦港に向けて進行中、冷却清水温度を十分に監視しなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、本件発生の1時間前には同温度を点検して正常であることを確認しており、その後相浦港入港前で島が多い海域を操船中で、警報が正常に作動したとき直ちに主機回転数を下げる処置をとっていることに徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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