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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成12年長審第56号
件名

漁船第五十六漁生丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年4月11日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(河本和夫、亀井龍雄、森田秀彦)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第五十六漁生丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
1番シリンダ主軸受メタルの焼損

原因
主機の据付けボルトの点検不十分、潤滑油圧力低下警報装置の作動確認不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の据付けボルトの点検及び潤滑油圧力低下警報装置の作動確認がいずれも不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月17日15時40分
 長崎県平戸島北側の辰ノ瀬戸入口付近

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十六漁生丸
総トン数 363.61トン
全長 51.41メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分437

3 事実の経過
 第五十六漁生丸(以下「漁生丸」という。)は、昭和53年8月に進水し、大中型まき網漁業の運搬船として操業に従事する鋼製漁船で、主機として、株式会社Sが製造した6MG31EZ型と称するディーゼル機関を装備し、船橋及び機関室に主機の警報装置を備えていた。
 主機は、各シリンダに船首方から順番号が付されており、一体型鋳鉄製の台板が、各シリンダ中心及び主軸受中心の両舷合計26箇所で、鋳鉄製チョックライナを挟んで呼び径36ミリメートルの据付けボルトにより機関台に取り付けられていた。
 主機の潤滑油は、サンプタンクに約4キロリットル入れられ、直結の潤滑油ポンプに吸引・加圧され、潤滑油冷却器、ろ過能力30ミクロンの潤滑油こし器を経て潤滑油主管に至り、調圧弁にて同主管の圧力が約4.3キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧され、同主管から分岐して各シリンダの主軸受に給油され、その後クランクピン軸受、ピストンピン軸受及びピストン冷却室を経てサンプタンクに戻って循環し、潤滑油主管の圧力が2.5キロ以下に低下したとき潤滑油圧力低下警報が作動し、2.0キロで主機が自動停止するようになっていた。
 主機の主軸受メタルは、鋼製裏金にケルメットを溶着し、鉛錫合金のオーバーレイを施し、さらに錫フラッシュメッキを施した多層ケルメットメタルで、交換基準は、オーバーレイが3分の1以上消滅した場合及び点検結果にかかわらず10,000ないし15,000時間運転ごととされており、漁生丸では年間約4,000時間運転されていたところ、昭和57年6月及び平成2年6月の各定期検査工事において全主軸受メタルが新替えされた。
 ところで、主機の台板は、主軸受メタルのハウジングを兼ねており、薄肉完成メタルの主軸受メタルが嵌め込まれるが、据付けボルトが緩んだり、チョックライナとの間にすき間が生じたりすると、運転中の振動に伴う主軸受ハウジングの変形で当該部主軸受の潤滑油膜保持が不均一となって潤滑不良につながるおそれがあった。
 A受審人は、平成4年7月から機関長として乗り組んで機関の管理に当たることとなり、機関当直中機関日誌に主機潤滑油圧力などを記載し、潤滑油こし器の掃除は1箇月半ないし2箇月ごとに実施し、同掃除前は潤滑油圧力が3.8キロ程度まで低下するのを認めていた。
 漁生丸は、同10年7月定期検査で入渠した際、船主の要望で主機の連続最大出力が1,103キロワット同回転数毎分500から735キロワット同回転数毎分437に変更され、主機各部の開放検査工事において、主軸受メタルはオーバーレイが残存していたので継続使用とされ、潤滑油全量新替え、サンプタンク内部掃除などが施行され、効力試験において潤滑油圧力低下による警報及び自動停止の作動が確認された。
 漁生丸は、同定期検査後主機の全速力を回転数毎分440として操業に従事するうち、主機1番シリンダ主軸受の右舷側のチョックライナにフレッチング摩耗を生じて主機台板と同チョックライナとの間にすき間が生じ、同部の据付けボルトが緩む状況となり、主機運転中1番シリンダ主軸受の潤滑油膜保持が不均一となる状況になったが、潤滑油圧力が3.8キロ以下に低下することがなかったので、主軸受メタルの潤滑が阻害されるまでには至らなかった。
 A受審人は、主機据付けボルトが緩むことはないものと思い、同ボルトを点検することなく、前示据付けボルトが緩んだ状態となっていることに気付かなかった。また、いつしか潤滑油圧力低下警報用の圧力スイッチのスイッチ部分が経年疲労で破損して同警報が作動不能となっていたが、平素主機を停止するとき前もって警報スイッチを切っていて、同警報の作動を確認せず、さらに、潤滑油圧力低下自動停止用の圧力スイッチのセンサー部分に潤滑油のスラッジが詰まったかして同スイッチの作動値が0.8キロに変動していたが、自動停止の作動テストを実施しないまま、これらが作動不良となっていたことにも気付かなかった。
 漁生丸は、長崎県調川港にて漁獲物を水揚げ後、A受審人ほか8人が乗り組み、基地に回航する目的で、船首2.50メートル船尾3.80メートルの喫水で、平成12年2月17日13時35分同港を発し、主機回転数を毎分440の全速力前進として同県青方港に向かった。
 A受審人は、14時機関当直に入って機関室を見回り、潤滑油圧力が4.3キロと正常で、主機運転状況に異状がないことを確認したあと食堂で休息した。
 漁生丸は、同県平戸島北側の辰ノ瀬戸入口付近を進行中船体が動揺したとき主機潤滑油ポンプがサンプタンク底部のスラッジを吸引したかして潤滑油こし器が目詰まりし、潤滑油圧力が2.5キロ以下に低下したが潤滑油圧力低下警報が作動せず、そのまま運転が続けられて1番シリンダ主軸受メタルの潤滑が阻害されて焼損し、同主軸受メタルの連れ回りでハウジングが焼損するとともに、2番及び4番ピストンが過熱膨脹してシリンダライナと接触し、15時40分大碆鼻灯台から真方位157度4.6海里の地点において、潤滑油圧力が0.8キロに低下して主機が自動停止した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹いていた。
 A受審人は、主機の停止に気付いて機関室に赴き、再始動しようとして電動の補助潤滑油ポンプを起動したが、潤滑油圧力が0キロ付近から上がらず、潤滑油こし器を掃除したところ潤滑油圧力が正常値になったので、15時50分主機を再始動し、運転を続けて潤滑油圧力を監視するうち、16時15分ごろから1番シリンダ主軸受メタルのケルメット粉が潤滑油こし器に詰まり始めて潤滑油圧力が徐々に低下し、16時30分ごろ潤滑油圧力が3.5キロとなったので、主機を停止して潤滑油こし器を点検したところ多量のケルメット粉を認め、クランク室を点検して1番シリンダ主軸受メタルの焼損を確認し、主機の運転が不能と判断した。
 損傷の結果、漁生丸は、僚船によりえい航されて長崎港に引き付けられ、主機が陸揚げのうえ精査され、前示の損傷のほか台板の1番、4番及び7番各主軸受ハウジングのセレーション底部に亀裂(きれつ)が発見され、台板、クランク軸など損傷部品が取替えのうえ修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の管理にあたり、据付けボルトの点検及び潤滑油圧力低下警報装置の作動確認がいずれも不十分で、チョックライナのフレッチング摩耗で同ボルトが緩み、運転中の振動に伴う主軸受ハウジングの変形で潤滑油膜の保持が不均一となっていたところ、潤滑油圧力が低下したが、警報が作動しないまま運転が続けられ、主軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の管理にあたる場合、チョックライナのフレッチング摩耗などで据付けボルトが緩むことがあるから、据付けボルトを点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、同ボルトが緩むことはないものと思い、同ボルトを点検しなかった職務上の過失により、同ボルトが緩んだまま主機の運転を続け、台板、主軸受、クランク軸、ピストン、シリンダライナなどを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。  





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