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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成12年門審第65号
件名

漁船漁栄丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年4月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(相田尚武、佐和 明、原 清澄)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:漁栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
5番及び6番シリンダのシリンダライナの縦傷等

原因
主機空気冷却器の防食亜鉛の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機空気冷却器の防食亜鉛の点検が不十分で、同亜鉛が消滅したまま運転が続けられ、同亜鉛取付プラグが腐食して脱落し、噴出した海水がクランク室内に浸入したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年3月14日22時00分
 長崎県対馬東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船漁栄丸
総トン数 13トン
全長 18.80メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 404キロワット
回転数 毎分1,850

3 事実の経過
 漁栄丸は、平成4年12月に進水したいか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、M社が製造した6LAH−ST形と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、各シリンダヘッドの左舷側に空気冷却器が船首尾方向に、シリンダヘッドの右舷側中央に過給機がそれぞれ配置され、動力取出軸で集魚灯用の交流発電機(以下「集魚灯用発電機」という。)を駆動できるようになっていた。
 主機の冷却は間接冷却方式で、その海水系統は、直結の海水ポンプにより船底吸入弁から吸引して加圧された海水が、空気、清水、クラッチ潤滑油及び潤滑油の各冷却器を冷却したのち、船外に排出されるようになっており、各冷却器には、海水による電解腐食防止用の保護亜鉛(以下「防食亜鉛」という。)が取り付けられていた。
 空気冷却器は、長さ1.11メートル幅0.19メートル高さ0.24メートルの多管式で、船首側及び船尾側各エンドカバーの側面に、防食亜鉛2個が、それぞれ海水系統内に挿入されるようプラグ(以下「防食亜鉛取付プラグ」という。)に装着されたうえ、同プラグがねじの呼びが25ミリメートルのねじ部で取り付けられていた。
 ところで、防食亜鉛の点検及び取替えについて、機関メーカーでは、2箇月ないし3箇月ごとか、または運転時間500時間を目安として点検し、消耗していれば取り替えるよう取扱説明書に記載していた。
 A受審人は、就航時から1人で乗り組み、主機の保守管理にあたり、燃料油、潤滑油及び海水各系統のこし器の取替えや潤滑油の交換は自ら行っていたものの、冷却海水系統の防食亜鉛の取替えは業者に依頼しながら、月あたり約280時間の運転に従事していた。
 漁栄丸は、主機冷却海水系統の防食亜鉛の取替えが7箇月ないし1年間の間隔で行われていたことから、空気冷却器付防食亜鉛が消滅してその機能が失われ、同冷却器内部が腐食するとともに船首側下方に位置する同亜鉛取付プラグのねじ部が腐食し始め、同10年10月中旬に業者により点検と取替えが行われたものの、その後、運転が継続されるうち、同亜鉛が再び消滅し、同ねじ部の腐食が次第に進行する状況となった。
 A受審人は、翌11年1月ないし2月ごろ主機の運転時間から空気冷却器付防食亜鉛の点検の必要性を認め、業者に同点検を依頼したものの、業者が繁忙期で来船することが困難であったことから、同時期を過ぎてから再度依頼すればよいものと思い、業者に取替方法を問い合わせるなどして速やかに同点検を行うことなく、主機の運転を続けていた。
 そのため、漁栄丸は、操業を繰り返すうち、前示防食亜鉛取付プラグのねじ部が著しく腐食し、同プラグの締付力が低下して脱落し易い状況となった。
 こうして、漁栄丸は、A受審人が1人で乗り組み、船首0.7メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同年3月14日16時00分長崎県対馬上島の芦(よし)ケ浦漁港を発し、18時30分ごろ対馬東方沖合の漁場に至り、主機を回転数毎分1,850にかけ、集魚灯用発電機を駆動し、集魚灯を点灯して操業中、水圧により前示防食亜鉛取付プラグが脱落して海水が機関室に噴出し、主機後部のクランク軸貫通部などから海水がクランク室内に浸入してシリンダライナとピストンの潤滑を阻害し始め、22時00分対馬黒島灯台から真方位136度6.8海里の地点において、動力取出軸継手が海水を巻き上げ、集魚灯用発電機にはねかけた。
 当時、天候は雨で風力4の北風が吹き、海上はしけ模様であった。
 A受審人は、船首甲板上で漁ろう作業中、集魚灯が点滅し始めたことから機関室へ赴き、空気冷却器付防食亜鉛取付口からの海水の噴出を認め、集魚灯を消灯して主機を停止し、ビルジ排出作業を行ったのち、空気冷却器付防食亜鉛取付口に木栓止めの応急措置を施した。
 漁栄丸は、自力航行して芦ケ浦漁港に帰港し、主機を開放した結果、5番及び6番シリンダのシリンダライナの縦傷、過給機などへの海水混入が判明したほか、集魚灯用発電機及び同灯用安定器などが濡損を生じており、のちそれらの損傷部が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機空気冷却器の防食亜鉛の点検が不十分で、同亜鉛が消滅したまま運転が続けられ、同亜鉛取付プラグのねじ部が腐食して締付力が低下し、同プラグが脱落して噴出した海水がクランク室内に浸入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転時間から空気冷却器付防食亜鉛の点検の必要性を認め、業者に同点検を依頼しても業者が繁忙期で来船することが困難であった場合、そのまま運転を続けると同冷却器海水系統内に電解腐食が進行するおそれがあったから、業者に取替方法を問い合わせるなどして速やかに同亜鉛を点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、業者の繁忙期が過ぎてから再度依頼すればよいものと思い、業者に問い合わせるなどして速やかに同亜鉛を点検しなかった職務上の過失により、同亜鉛の消滅に気付かないまま、同亜鉛取付プラグのねじ部の腐食を進行させ、同プラグの脱落により海水を機関室内に噴出させてクランク室内に浸入させる事態を招き、シリンダライナ及び過給機などを損傷させ、集魚灯用発電機及び同灯用安定器などに濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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