(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年7月22日15時00分
鹿児島県トカラ群島宝島南東沖
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船白龍丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
16.67メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
188キロワット |
3 事実の経過
白龍丸は、平成元年に竣工した、屋形船型のFRP製旅客船で、前方より順に、船首物入れ、客室出入口と便所、左右両舷が全面ガラス窓の客室、機関室が設置され、客室上層の遊歩甲板前部に操舵室が設けられていた。また、トランサムより後方に、長さ1.8メートル幅4.4メートルの船尾張出し甲板が設けられ、同甲板上には厨房が設けられ、同甲板下方の両舷側及び後方には最大高さ60センチメートルのスカート状の船側外板が取り付けられており、かつ、同船側外板の下縁に10センチメートルの折り返しが取り付けられ、同甲板の下部が袋状となっていた。このため、張出し甲板の袋状の部分に大波を受けると、同部分に過大な水圧がかかり、トランサムが容易に破損し、機関室に浸水するおそれがあった。
白龍丸は、A受審人1人が乗り組み、熊本県三角町から沖縄県浦添市への回航の目的で、平成12年4月28日三角町を発し、鹿児島県串木野港を経て6月初旬鹿児島港に入港した。
A受審人は、船尾張出し甲板下の構造がどうなっているかを知らなかったものの、屋形船型で海象の厳しい外洋を航行するに耐える強度はないと認識していたので、船積み輸送とすることも考えたが、以前7回ばかりタグボートなどを沖縄県まで回航した経験から、何とか航行できるものと思い、船積み輸送とするなど堪航性に十分に配慮することなく、天候を選んで出港することとして鹿児島港で待機した。
こうして、A受審人は、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水で、平成12年7月19日鹿児島港を発し、鹿児島県屋久島宮之浦港を経て同月21日同県宝島前籠漁港に至り、翌22日07時00分同港を発して名瀬港に向かい、同時54分宝島荒木埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点において、針路を165度に定め、6.4ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、11時ごろから南西寄りの風波が強まり、速力も3.2ノットに落ちたので、前籠漁港に引き返すこととし、11時30分宝島荒木埼灯台から158度22.2海里の地点で、左舵一杯として回頭中、100度に向いたとき、船尾方にドーンという大きな音を聞いた。
白龍丸は、そのとき、船尾張出し甲板下の袋状となった部分に南西からの大波を受け、トランサムが破損したかして機関室への浸水が始まった。
A受審人は、11時36分先ほどの音が気になり、確認するため客室を点検していたところ、機関室内に大量の海水が浸水しているのを認め、その後、前方の区画や客室に浸水し、船尾が急激に沈下するので、沈没の危険を感じ、膨張式救命いかだに移乗し、海面上に浮いていた船首部分にもやいをとって漂流を始めた。
白龍丸は、15時00分宝島荒木埼灯台から159度15.4海里の地点において、浮力を喪失して沈没した。
当時、天候は雨で風力5の南西風が吹き、海上は波がやや高かった。
その結果、白龍丸は全損となり、A受審人は貨物船に救助された。
(原因)
本件沈没は、鹿児島港から沖縄県浦添市へ屋形船型の白龍丸を輸送するにあたり、堪航性に対する配慮が不十分で、船積み輸送とせず、鹿児島港を出港して鹿児島県宝島から名瀬港に向け航行中、機関室及び客室等に浸水し、浮力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島港から沖縄県浦添市へ白龍丸を輸送する場合、屋形船型なので海象の厳しい外洋を航行するに耐える強度はないと認識していたのであるから、船積み輸送とするなど堪航性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、何とか航行できるものと思い、堪航性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、鹿児島港を出港して鹿児島県宝島から名瀬港に向け航行中、機関室及び客室等に浸水させ、浮力を喪失せしめて沈没を招き、全損となるに至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。