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平成12年神審第120号
件名

引船和丸沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成13年6月7日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西田克史、黒田 均、西山烝一)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:和丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:第三神崎丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
和 丸・・・機関等に濡損のち転覆、沈没

原因
和 丸・・・曳航状況の監視不十分
神崎丸・・・曳航支援状況の連絡不適切

主文

 本件沈没は、和丸が、曳航状況の監視が不十分であったことと、第三神崎丸が、曳航支援状況の連絡が不適切であったこととにより、和丸がはしけSK340に横引きされる状態となったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月14日18時00分
 大阪港堺泉北区第1区

2 船舶の要目
船種船名 引船和丸
全長 10.50メートル
2.40メートル
深さ 1.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 77キロワット

3 事実の経過
(1)和丸
 和丸は、主に大阪港の浚渫現場において、はしけの曳航業務に従事する、1層甲板型の鋼製引船で、上甲板上が、船首から順に長さ3.32メートルの船首甲板、機関室囲壁、これに接して操舵室、長さ3.91メートルの船尾甲板となっており、船首尾甲板には各1基のビットを備えていた。上甲板下は、船首から順に甲板長倉庫、機関室、倉庫兼舵機室となっており、操舵室は、長さ1.09メートル幅1.47メートル高さ1.41メートルで、同室右舷側の前窓下には、幅0.53メートル高さ0.70メートルの機関室出入口を設け、機関室は、長さ2.18メートル幅1.53メートル高さ1.90メートルであった。
(2)SK340
 SK340(以下「S号」という。)は、宗田造船株式会社が所有し、静丸海運株式会社が借り入れた、全長30メートル幅7.8メートル深さ3.0メートルで、300立方メートル積の鋼製無動力はしけで、本件当時、空倉で船首尾0.8メートルの等喫水であった。
(3)第三神崎丸
 第三神崎丸(以下「神崎丸」という。)は、大阪土砂採取運搬株式会社が所有し、登録長8.7メートル幅2.6メートル深さ1.5メートルの鋼製引船で、主機として出力69キロワットのディーゼル機関を搭載し、和丸と同様にはしけの曳航業務に従事していた。
(4)浚渫現場等
 浚渫現場は、大阪港大阪区第5区と同港堺泉北区第1区にまたがる大和川河口部に当たり、和丸及び神崎丸が従事していた業務は、ほか5隻の引船とともに、S号を含む4隻のはしけに浚渫土砂が積み込まれる都度、堺北泊地南防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から120度(真方位、以下同じ。)100メートルの地点に錨泊中のクレーン船まで曳航し、同船のクレーンで更に喫水の深いはしけに土砂が積み替えられ、空倉となれば再び浚渫現場まで曳航するもので、これを1日数回繰り返し、夜間には浚渫現場内の作業船集結地で待機するようになっていた。
(5)沈没に至るまでの経緯
 和丸は、A受審人が1人で乗り組み、帰途の目的で、船首0.5メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成11年9月14日17時55分前示クレーン船を発し、作業船集結地へ向かった。
 これより先、日没を間近にし、クレーン船の舷側には当日の浚渫作業を終えたS号、続いて2隻のはしけ、更に和丸のほか2隻の引船が順次横付けしており、神崎丸が一番外側となっていた。
 A受審人は、発航に当たり、空倉であるS号の船首中央部のフェアリーダから直径40ミリメートルの合成繊維製の曳航索を10メートル延出し、その端のアイを自船の船尾端から船首方3.50メートルの船体中心線上にある、直径15センチメートル甲板上高さ1メートルのビットに掛け、クレーン船とはしけとの間から引き出して曳航を開始し、操舵室左舷側の舵輪後方に置かれたいすに腰を下ろして操船に当たり、17時57分防波堤灯台から027度13メートルの地点で、針路を329度に定め、3.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 また、B受審人は、S号の引き出しに協力し、残りのはしけなどを再びクレーン船に係留させたのち、神崎丸に1人で乗り組み、船首0.5メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同日17時56分半前示クレーン船を発し、作業船集結地に向かった。
 B受審人は、操舵室左舷側の舵輪後方に立って操船に当たり、17時57分半防波堤灯台から005度17メートルの地点で、和丸の曳航支援目的でS号の船尾を押すこととしたが、これまでも連絡なしに押航して問題がなかったので大丈夫と思い、横引き状態とならないよう、無線により和丸と緊密な連絡を確保し、押航での曳航支援状況の連絡を適切に行うことなく、S号の船尾中央部に船首を付け、曳航速力に合わせて押し始めた。
 ところで、A受審人は、S号の曳航に当たったが、日没までに曳航作業を終えようと気が急き(せき)、横引き状態にならないよう、曳航状況の監視を十分に行うことなく続航し、17時58分防波堤灯台から335度100メートルの地点に達したとき、あて舵のつもりで2度ばかり左舵を取り、わずかに左偏しながら進行中、依然、曳航状況の監視が不十分で、いつしか曳航方向とS号の船首方向との開きが大きくなり、曳航索が横方向に張っていることに気付かずに曳航を続けた。
 18時00分少し前A受審人は、舵の操作を重く感じて後方を見たところ、S号の船首が右舷船尾方にあり、曳航索が横に強く張ったまま神崎丸が押航しているのを視認し、危険を感じてB受審人に押すのを止めるよう無線で連絡するとともに、機関をアイドリングの回転数まで下げた。
 一方、B受審人は、操舵位置からではS号の船体が死角となって曳航索の状況など前方の確認が困難であるうえ、和丸と緊密な連絡をしていなかったことから、曳航索が横方向に張っていることに気付かずに押航するうち、突然、A受審人の叫び声を無線で聞き、急ぎクラッチを中立にし、S号から離れて前方を確認したところ、同号左舷方に和丸が左舷側を見せて横向きになっているのを認めた。
 和丸は、S号に横引きされる状態となって左舷側に大傾斜して転覆し、18時00分防波堤灯台から329度285メートルの地点において、機関室に海水が流入して浮力を失い沈没した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、日没は18時09分であった。
 沈没の結果、和丸は、機関等に濡損を生じ、のち引き揚げられ、A受審人は、転覆直後に操舵室から脱出して神崎丸に救助された。

(原因)
 本件沈没は、日没間近、大阪港堺泉北区第1区において、和丸が、S号を曳航する際、曳航状況の監視が不十分であったことと、神崎丸が、S号を押航する際、曳航支援状況の連絡が不適切であったこととにより、曳航方向とS号の船首方向との開きが大きくなり、和丸がS号に横引きされる状態となって転覆し、浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日没間近、大阪港堺泉北区第1区において、S号の曳航に当たる場合、横引き状態とならないよう、曳航状況の監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、日没までに曳航作業を終えようと気が急き、曳航状況の監視を十分に行わなかった職務上の過失により、曳航方向とS号の船首方向との開きが大きくなり、曳航索が横方向に張っていることに気付かずに曳航を続け、S号に横引きされる状態となって転覆し、浮力を喪失して沈没を招き、機関等に濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、日没間近、大阪港堺泉北区第1区において、曳航支援目的でS号の船尾を押す場合、曳航索の状況など前方の確認が困難であったから、横引き状態とならないよう、無線により和丸と緊密な連絡を確保し、押航での曳航支援状況の連絡を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまでも連絡なしに押して問題がなかったので大丈夫と思い、曳航支援状況の連絡を適切に行わなかった職務上の過失により、曳航索が横方向に張っていることに気付かずに押航を続け、和丸の沈没を招き、前示の濡損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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