(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月21日09時30分
石川県河北郡内灘町沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート海幸 |
全長 |
5.99メートル |
幅 |
2.04メートル |
深さ |
0.80メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
44キロワット |
3 事実の経過
海幸は、船尾端に船外機を備えたFRP製プレジャーボートで、きす釣りの目的で、A受審人が単独で乗り組み、友人2人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成11年8月21日06時30分石川県河北郡内灘町の河北潟の放水路(以下「放水路」という。)に面した内灘マリーナを発し、同マリーナ沖合の釣り場に向かった。
ところで、放水路は、河北潟と日本海を結ぶ幅約100メートル長さ約1,500メートルの水路で、海岸線から内陸方へ約200メートルのところに水門が設けられていた。
海側からの放水路入口は、金沢港西防波堤灯台から055度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点(以下「基点」という。)を北端として、165度方向に湾曲しながら海岸に至る長さ約250メートルの放水路口南側の防波堤(以下「南防波堤」という。)と、基点の115度方向に100メートルの水域を隔てた地点を北西端として131度方向に延びて海岸に至る長さ約130メートルの放水路口北側の防波堤(以下「北防波堤」という。)とにより、幅約100メートルの防波堤入口が形成されていた。
A受審人は、長年にわたり何回も防波堤入口を航過した経験を持ち、防波堤先端付近の水深が急に浅くなっていて、沖合から波高の高いうねりが防波堤先端に打ち寄せると、高起したいそ波が発生することなどの水路事情を十分に承知していた。
A受審人は、防波堤入口北方1.5海里ばかり沖合の水深約10メートルの釣り場に至って2時間20分ほど釣りを行ったものの、釣果が良くなかったことから南西方に移動し、09時15分防波堤入口北西方1,000メートルばかり沖合で他船の釣果の様子を見ることとして漂泊を開始し、時々現れる波高の高いうねりにより、船体の上下運動が周期的に大きくなるのを認めた。
09時28分A受審人は、基点から325度950メートルの地点に達したとき、同乗者が船酔いをしたので内灘マリーナに帰ることとして釣り場を発進することにしたが、そのころ防波堤入口から水上オートバイが出航してくるのを見かけたことから、防波堤付近に危険を及ぼす波はないものと思い、周期的に現れる波高の高いうねりを見送るなど、いそ波に対する配慮を十分に行うことなく、針路を放水路水門のほぼ中央に向首する145度に定め、機関を回転数毎分3,500にかけ、15.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
09時30分わずか前A受審人は、南防波堤先端付近に至ったころ、右舷後方から打ち寄せるうねりで船尾を左方に押され、折からの高起したいそ波を右舷正横に受け、09時30分基点から045度10メートルの地点において、海幸は、右舷側から波面にあおられて左方に大傾斜し、復原力を喪失して転覆した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、日本海を北上した熱帯低気圧の余波により、時々波高2メートルを超えるうねりがあった。
転覆の結果、海幸は、消波ブロックに打ち当てられて大破し、全損となった。
(原因)
本件転覆は、石川県河北郡内灘町沖合において、放水路の防波堤入口に向け釣り場を発進する際、いそ波に対する配慮が不十分で、防波堤先端付近に接近し、高起したいそ波を右舷正横から受けて大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、石川県河北郡内灘町沖合において、放水路の防波堤入口に向け釣り場を発進する場合、船体の上下運動が周期的に大きくなっていたのであるから、高起したいそ波に遭わないよう、周期的に現れる波高の高いうねりを見送ったのちに発進するなど、いそ波に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、防波堤入口から水上オートバイが出航してきたことから、防波堤付近に危険を及ぼす波はないものと思い、いそ波に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、防波堤先端付近に接近し、高起したいそ波を右舷正横から受けて大傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、海幸を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。