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平成12年函審第48号
件名

プレジャーボートフィエスタイレブン被引作業船第十五新竜丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年5月22日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(工藤民雄、安藤周二、織戸孝治)

理事官
熊谷孝徳、堀川康基

受審人
A 職名:フィエスタイレブン船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第十五新竜丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
新竜丸・・・機関などを濡損し、のち廃船
フィ号・・・左舷側後部の船底に2箇所の凹損

原因
フィ号・・・追い波の危険性に対する配慮不十分

主文

 本件転覆は、追い波の危険性に対する配慮が不十分で、早期に避難の措置をとらなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年1月28日12時40分
 北海道内浦湾

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート
フィエスタイレブン
作業船第十五新竜丸
総トン数 19トン  
全長 16.47メートル  
長さ   10.50メートル
4.17メートル 3.00メートル
深さ 1.90メートル 1.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 882キロワット 58キロワット

3 事実の経過
 フィエスタイレブン(以下「フィ号」という。)は、北海道函館港内や同港周辺の遊覧航海などに従事する2基2軸の軽合金製プレジャーボートであるが、第十五新竜丸(以下「新竜丸」という。)を北海道内浦湾の豊浦漁港から函館港まで曳航する目的で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成11年1月28日10時30分同漁港の岸壁を発したのち、港外で新竜丸の曳航準備に取り掛かった。
 ところで、新竜丸は、昭和60年7月に竣工した、港湾工事などに使用する母船である起重機船から5海里以内の限定沿海区域を航行区域とする作業船兼交通船で、船体中央やや後方に操舵室を設け、その後部上甲板側に開き戸式の出入口扉を取り付けていた。また操舵室前方の前部上甲板下が少量のロープ類を格納した倉庫、同室後方の後部上甲板下が舵機庫となっていて、両庫のハッチは縦50センチメートル(以下「センチ」という。)横30センチの鋼製の蓋を被せバタフライナットで閉鎖されており、前後部上甲板の周囲には船体中央における高さ35センチのブルワークが巡らされ、両舷側の下部には各舷3箇所に高さ5センチ長さ15センチの放水口が設けられていた。
 新竜丸は、豊浦漁港の防波堤延長工事における潜水作業船として、潜水夫の作業援助に使用されていたところ、同漁港での作業が終了したのに伴いフィ号に曳航されて函館港に向かうこととなり、B受審人が1人で乗船し、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって同漁港の岸壁を発したのち、港外でフィ号との曳航準備に当たった。
 A受審人は、フィ号の船首尾両舷に設置された4個のビットに、直径40ミリメートル(以下「ミリ」という。)の化学繊維製ロープをそれぞれひと巻きしたうえ、同ロープを4個のビットの外側から大回ししてその両端を左舷側で結び、更に同ロープの後端に同径で同じ材質の長さ80メートルのロープを連結し、その先端に新竜丸の船首両舷のビットから延出した直径15ミリ長さ6メートルの各ワイヤの先端部をシャックルで合わせY字型に接続して曳航準備を整えた。
 当時、北海道地方の気象状況は、低気圧が北海道の東方海上に抜け、これに続いて大陸から高気圧が張り出して西高東低の冬型の気圧配置となり、前日、室蘭地方気象台から胆振地方全域に発表された風雪波浪注意報が06時10分に更新され、内浦湾一帯では次第に北西風が強まることが予想されて波浪が高まる状況であり、A受審人は、発航に先立ち09時ごろテレビの天気予報を見て冬型の気圧配置となっていることを知っていた。
 10時40分A受審人は、豊浦港南防波堤灯台から229度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点において、船尾方に新竜丸を引いて航行を開始し、針路をほぼ恵山岬に向く156度に定めて自動操舵とし、両舷機関を回転数毎分1,500の半速力前進にかけ、折からの弱い北風を船尾方向から受け、7.2ノットの対地速力で、操舵室の左舷側に立って時々後方の新竜丸の状況を見ながら内浦湾を南下した。
 一方、新竜丸に乗船していたB受審人は、同船に潜水士として乗り組んで潜水作業に従事するほか、同作業の際に船長職をとって母船の周辺などを航行していたものであるが、今回のように長時間他船に曳航されることは初めてであり、発航前のA受審人との打合わせのとおり、機関を回転数毎分1,000の半速力前進にかけてフィ号に曳航され、舵輪の後方に立ち見張りと手動操舵に当たって進行した。
 11時48分A受審人は、伊達港南防波堤灯台から256度3.9海里の地点に差し掛かったとき、風向が北西に変わって風速が増し、1ないし1.5メートルに高まった風浪を右舷船尾方向から受けるようになり、船体の動揺も大きくなったので、針路を渡島半島に近づける163度に転じて続航した。
 その後、A受審人は、さらに風が強まり、波高が2メートル前後に達し、このまま航行を続けると小型の被曳船が高まった波を受け、ブローチング現象を起こし、保針ができず操縦不能となって転覆するおそれがあったが、この程度の波であれば何とか航行できるものと思い、早期に最寄りの港に避難する措置をとるなど、追い波の危険性に十分配慮することなく、そのまま航行を続けた。
 このころB受審人は、新竜丸が増勢した北西風と高まった風浪を右舷船尾方向から受け、船体のピッチングが激しく船首の振れも大きくなったことから、フィ号の後方に追尾するため、適宜当て舵をとって保針に努めながら進行した。
 やがてA受審人は、同じ針路、速力で新竜丸を曳航していたところ、12時40分少し前、同船が右舷船尾方向から追い波を受けて船首が下がったあと、続いてきた約2.5メートルに高まった波に乗り左回頭しながら右舷方に大傾斜して滑り降り、12時40分室蘭港北外防波堤灯台から267度4.6海里の地点において、新竜丸は、南東方に向いてそのまま右舷側に転覆した。
 当時、天候は雪で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、付近海域の波高は約2.5メートルであった。
 A受審人は、船尾で後方を見ていた甲板員から新竜丸が転覆したとの報告を受け、直ちに引綱を切断して反転し、海中に投げ出されたB受審人を救助したのち、他の引船を手配して新竜丸を室蘭港に引き付けた。
 その結果、新竜丸は、機関などを濡損して廃船となり、また、フィ号は救助のため新竜丸に接近したとき同船と接触して左舷側後部の船底に2箇所の凹損を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件転覆は、風雪波浪注意報が発表中の状況下、フィ号が新竜丸を曳航して内浦湾を南下中、高まった風浪を右舷船尾方向から受け船体の動揺が大きくなった際、追い波の危険性に対する配慮が不十分で、早期に避難の措置をとらず、ブローチング現象が生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、風雪波浪注意報が発表中の状況下、新竜丸を曳航して内浦湾を南下中、伊達港西方沖合で高まった風浪を右舷船尾方向から受け船体の動揺が大きくなった場合、このまま航行を続けると小型の被曳船が高まった波を受け、ブローチング現象を起こし、保針ができず操縦不能となって転覆するおそれがあったから、早期に最寄りの港に避難する措置をとるなど、追い波の危険性に十分配慮すべき注意義務があった。ところが、同人は、この程度の波であれば何とか航行できるものと思い、早期に避難の措置をとるなど、追い波の危険性に十分配慮しなかった職務上の過失により、新竜丸が高まった追い波を受け、ブローチング現象を起こして転覆を招き、機関などに濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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