(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月5日13時14分
香川県多度津港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート新栄丸 |
登録長 |
9.07メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
44キロワット |
3 事実の経過
新栄丸は、昭和61年7月に製造された、航行区域を限定沿海区域とするFRP製プレジャーボートで、甲板下には船首から順に、前部物入れ、活魚倉、機関室、バッテリー室及び後部物入れが配列され、甲板上の船体中央部やや船尾寄りに設置された機関室囲壁後部に操縦スタンドが設けられていた。
主機は、M株式会社が製造したMD45型と称する、海水混合船尾排気方式のディーゼル機関で、前部動力取出軸に冷却清水ポンプ、冷却海水ポンプ及びバッテリー充電用発電機をそれぞれVベルト駆動方式で連結し、操縦スタンドに設けられた計器盤にキースイッチが備えられ、始動はセルモータで行われていた。
また、主機の冷却海水系統は、船底の海水吸入口から海水吸入弁を介して冷却海水ポンプにより吸引加圧された海水が、冷却清水タンク兼冷却器を冷却したのち、排気出口に設けられた鋼製ミキシング管で排気と混合され、排気管内を冷却して船外に排出されるようになっていた。
一方、主機の排気管は、最高使用温度が摂氏100度の仕様で製造された外径116ミリメートルの塩化ビニール製で、ミキシング管にゴム継手を介して差し込まれ、機関室後部隔壁の右舷側を貫通したあと、バッテリー室及び後部物入れを経て、船尾端外板の水線付近に設けられた排気口に取り付けられており、高温の排気に冷却海水を混合することによって同管内部温度を低下させているもので、冷却海水ポンプ駆動用Vベルトの衰耗などで運転中に冷却海水量が不足すると、ゴム継手とともに過熱して発火するおそれがあった。
A受審人は、それまで所有していたプレジャーボートを売却して平成10年ごろ中古の本船を購入し、友人らを乗せて日帰りの魚釣りを月に2ないし3回行っていたもので、操船の傍ら機関の運転管理にも当たり、半年に一度上架して船体の整備を行う際には、主機潤滑油の取替えを行っていたものの、機関室前部が狭いこともあって冷却海水ポンプなどの駆動用Vベルト及びプーリを点検していなかった。
そして、A受審人は、同11年9月5日昼すぎ新栄丸を係留している香川県多度津港に着き、主機の潤滑油量及び冷却清水量、バッテリーの液量などを点検して発航準備を終えたのち主機を始動したが、それまで冷却海水系統に支障を生じたことがなかったので大丈夫と思い、排気口からの冷却海水吐出状況を確認しなかったことから、衰耗した冷却海水ポンプ駆動用Vベルトが滑って冷却海水量が著しく不足したまま主機を運転していることに気付かなかった。
こうして、新栄丸は、A受審人が1人で乗り組み、同乗者を1人乗せ、魚釣りの目的をもって、船尾トリムの状態で同日13時00分同港を発し、同港北西方沖合の釣り場に向け主機を全速力前進として航行中、高温の排気にさらされた排気管が過熱し始め、13時14分多度津港西防波堤灯台から真方位326度820メートルの地点において、同管から発火して機関室が火災となった。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、海上には波高0.5メートルばかりのうねりがあった。
A受審人は、ビニールが燃えるような臭いに気付いて間もなく、機関室入口の引き戸から黒煙が噴出して排気管ゴム継手から炎が上がっているのを認め、直ちに主機を停止し、バケツで海水をかけて鎮火させたのち、携帯電話で友人に救助を依頼した。
新栄丸は、やがて来援した友人のプレジャーボートによる曳航を開始したところ、焼損した主機排気管の破孔部から海水が浸入して座州したので、折しも通りかかったクレーン装備の漁船に抱えられて多度津港に戻り、のち焼損した排気管及び機関室後部隔壁のほか、濡損した機器の修理が行われた。
(原因)
本件火災は、主機冷却海水ポンプ駆動用Vベルトの点検が不十分で、同ベルトが衰耗したまま放置されたことと、始動後の排気口からの冷却海水吐出状況の確認が不十分であったこととにより、冷却海水量が著しく不足したまま運転が続けられ、塩化ビニール製の排気管が過熱発火したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、海水混合船尾排気方式の主機を始動した場合、冷却海水量が不足して塩化ビニール製の排気管が過熱することのないよう、排気口からの冷却海水吐出状況を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、それまで冷却海水系統に支障を生じたことがなかったので大丈夫と思い、排気口からの冷却海水吐出状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、衰耗した冷却海水ポンプ駆動用Vベルトが滑って冷却海水量が著しく不足していることに気付かないまま運転を続け、排気管が過熱発火して機関室が火災となったうえ、排気管の破孔部からの浸水を招き、機関室後部隔壁を焼損させ、機器に濡損を生じさせるに至った。