(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年6月19日04時30分ごろ
台湾高雄港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十八開洋丸 |
総トン数 |
293トン |
全長 |
48.36メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
第二十八開洋丸(以下「開洋丸」という。)は、昭和48年3月に進水し、専ら活魚の運搬に従事する船尾機関室型の漁船で、機関室上部に乗組員居住区があり、その上部に船橋が配置されていた。また、同船は、逆転減速機を備えた過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を主機として装備し、船橋から主機の回転数制御と逆転減速機の切替え操作ができ、船橋には、主機の計器類や警報装置のほか、主機の危急停止装置、燃料油タンク取出弁の遠隔遮断装置及び機関室通風機の停止装置などが設置されていたが、機関室の火災警報装置は設けられていなかった。
機関室は上下2段に区分されていて、下段には、中央部に主機が、船首側に魚倉用のポンプ類が、右舷側にディーゼル機関駆動の1号発電機、主機潤滑油ポンプ及び主機冷却清水ポンプなどが、左舷側にディーゼル機関駆動の2号発電機、燃料油移送ポンプ、ビルジポンプ及び雑用海水ポンプなどがそれぞれ配置されていたほか、2号発電機の船尾側に、燃料油移送ポンプ、ビルジポンプ及び雑用海水ポンプ等の各発停スイッチや電源スイッチを納めた集合始動器盤が設けられていた。
主機はA重油を燃料油として使用しており、主機の燃料油入口管は、呼び径32ミリメートルの鋼管で、機関室上段左舷に設けられた燃料油常用タンクから同タンク付の取出弁を経て、機関室下段左舷船尾側上部を通って主機左舷側の燃料噴射ポンプまで配管されており、同配管は、途中で、集合始動器盤の真上約30センチメートルのところを、右舷側が少し高くなるよう、わずかに傾斜して左舷側から右舷側に配管され、同始動器盤の右舷上方には両端にフランジ継手を有する長さ約1メートルの短管が使用されていた。また、同管は乗組員が船尾側の階段を上り下りする際に掴まりやすい位置にあり、同管及び集合始動器盤周辺は航海中かなり振動が多い場所であった。
A受審人は、平成8年7月から開洋丸に乗り組み、機関長として機関室内各機器の運転や保守管理などに従事していたもので、機関室当直を、自身と一等機関士による4時間単独当直とし、各当直後2時間は船橋当直者に当直を委ねて機関室を無人とするという体制で行っていた。
ところで、A受審人は、自身の当直中に、集合始動器盤上の主機燃料油入口管が大きく振動しているのを認めていたが、燃料油が漏洩していないので問題はあるまいと思い、同管のフランジ継手部の点検を行わなかったので、同継手部のボルトがいつしか振動の影響を受けて緩み始め、次第にその緩みが進行していたが、このことに気付かなかった。さらに、同人は、集合始動器盤の扉が変形していて完全に閉まり切らないうえにその上部にひさしがなく、同始動器盤上に燃料油が降りかかると同油が内部に浸入するおそれがあることを認めていたが、燃料油浸入防止措置を行っておらず、また、乗船以来、同始動器盤内部の各端子の緩み点検や電路の絶縁抵抗の測定も行っていなかった。
こうして、開洋丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、稚魚990キログラムを載せ、船首3.4メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、同11年6月18日21時50分台湾高雄港を発し、主機を全速力前進にかけ、1号発電機を単独で運転し、燃料油移送ポンプを自動運転とした状態で鹿児島県奄美大島に向かった。
翌19日、開洋丸は、03時ごろA受審人が機関室当直を終え、次直の一等機関士の当直時間まで機関室を無人として航行中、集合始動器盤上の主機燃料油入口管フランジ継手のボルトの緩みが進行して、同継手部から漏洩したA重油が同始動器盤上に降りかかり、同油の一部が同始動器盤内に浸入する状況となり、燃料油移送ポンプが自動で始動したとき、端子が緩んでいたかして生じた火花などで同油が着火し、周囲に延焼していたところ、同日04時30分ごろ北緯23度48分東経119度58.9分の地点において、船橋当直中の船長が、船橋内に流入した煙を認めて機関室に急行し、機関室下段左舷後部で火災が発生しているのを発見した。
当時、天候は雨で風力3の北風が吹き、海上は穏やかであった。
自室で就寝していたA受審人は、船長から連絡を受けて直ちに機関室に急行し、機関室下段左舷船尾の集合始動器盤周辺から炎が出ているのを認めたので、船橋から主機燃料油常用タンクの取出弁を遮断するとともに、主機の危急停止や機関室通風機停止などの処置を行い、他の乗組員と協力して、機関室から外部に通じる全ての通路を閉鎖し、船橋後部のスカイライトを開け、持運び式消火器及び清水の放水による消火活動に努めたものの鎮火させるに至らず、その後、船長の要請で来援した台湾の救助船から炭酸ガス消火器を借りて機関室内に炭酸ガスを放出するなどの消火活動を続け、10時10分ごろ鎮火させた。
火災の結果、開洋丸は、航行不能となり、会社が手配した引船に曳航されて同月23日に沖縄県石垣港に引き付けられ、のち、焼損した機関室及び居住区域のほか、焼損及び濡れ損した電気機器や電線などがそれぞれ修理された。
(原因)
本件火災は、主機燃料油入口管フランジ継手部の点検及び同管下方の集合始動器盤の燃料油浸入防止措置がいずれも不十分で、同継手部から漏洩したA重油が同始動器盤内に浸入して着火したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関長として機関室内機器の保守管理に当たる場合、集合始動器盤上に配管されたフランジ継手を有する主機燃料油入口管が大きく振動しているのを認めていたのであるから、ボルトが緩んで同継手部からA重油が同始動器盤上に漏洩することのないよう、同継手部の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、燃料油が漏洩していないので問題はあるまいと思い、ボルトの緩みを点検するなど、フランジ継手部の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、ボルトが緩んだ同継手部からA重油を集合始動器盤上に漏洩させ、同油が同始動器盤内に浸入して火災を招き、機関室及び居住区などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。