(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月4日07時40分
オーストラリア東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八豊進丸 |
総トン数 |
299.53トン |
登録長 |
44.13メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第三十八豊進丸(以下「豊進丸」という。)は、昭和55年7月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか邦人10人とインドネシア人8人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、平成12年3月30日13時05分フィジー諸島共和国スバ港を発し、オーストラリア東方沖合の漁場に向かった。
豊進丸は、上甲板の船首部に船首楼を、同甲板の中央部から船尾部にかけて船尾楼をそれぞれ設け、両船楼の間が作業場になっていて、船尾楼甲板上には甲板室が設けられていた。甲板室には、船首側から順に操舵室、乗組員居室、漁具置場及び投縄作業場などが、また、船尾楼甲板下には、船首側から順に凍結室、第4魚倉、冷凍機室、同室船尾側の中央部に乗組員食堂、同食堂の右舷側に調理室、左舷側に司厨長室、最船尾に操舵機室がそれぞれ設けられていた。さらに、上甲板下には、船首水倉、第1、第2及び第3魚倉、機関室、燃料油タンクなどが設けられていた。そして、甲板室頂部には、船尾部右舷側に焼却炉が設置され、各甲板の船尾部には階段が備えられていた。
ところで、調理室は、右舷側船首方から流し台及び冷凍庫を、左舷側の乗組員食堂との壁側には船首方から電気レンジ、ガスレンジ(以下「レンジ」という。)及び配膳(はいぜん)台を設置し、同台の船尾側が同食堂との出入口となっていて常時開放されていた。そして、レンジには、プロパンガスが熱源として用いられていた。
A受審人は、平成11年11月船長として乗り組み、運航に当たっていたもので、B指定海難関係人が、同年3月に司厨長として乗り組み、同人が長年遠洋区域の漁船に甲板員及び調理担当として乗船していたことから、食事の調理作業に当たらせるとともに、調理室の火気の取扱いを任せ、火気使用時における火災防止に関する注意を口頭で行っていた。
B指定海難関係人は、同12年4月4日07時15分から昼食の準備にかかり、てんぷらを作るために鍋にサラダ油を8分目ほど注ぎ入れ、レンジを点火して加熱を開始し、同時20分から茄子(なす)のてんぷらを揚げた。そして、同人は、同時30分ごろレンジの火力を少し弱め、続いて人参(にんじん)を揚げようとしたところでごみの処理を思い立ち、調理作業を中断してごみ投棄のために調理室を離れて無人としたが、短時間なら点火したままでも大丈夫と思い、火災防止に対する配慮を十分に行わず、レンジを消火しないまま、同室に保管してあった生ごみと可燃性ごみを携えて船尾方の階段を上がって船尾楼甲板に出て生ごみを海中投棄し、引き続き甲板室頂部の焼却炉で可燃性ごみを処理していた。
こうして、豊進丸は、無人となった調理室で、レンジ上に置かれた鍋が過熱し、てんぷら油に引火して天井などに燃え移り、07時40分南緯34度41分東経164度4分の地点において、調理室が火災となった。
当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、海上にはうねりがあった。
B指定海難関係人は、ごみの処理を終えて調理室に戻る途中、船尾楼甲板に降りたところで、乗組員食堂に至る階段から黒煙が噴出しているのを認め、調理室に急行し、流し台に置いてあったボウルの海水を鍋に向けて掛けたが、火勢が増したので、調理室から再び同甲板上に戻り、甲板洗浄用の海水ホースを用いて乗組員食堂に向けて放水を行ったものの、依然として火勢は衰えず、近くを通りかかった機関長に火災発生の事態を報告した。
A受審人は、上甲板の作業場で漁具の整備に当たっていたところ、機関長から火災発生の連絡を受けて船尾方に急行し、乗組員食堂に通じる扉を閉鎖して密閉消火の措置を施し、翌5日08時10分に鎮火を確認した。
火災の結果、調理室、乗組員食堂及び司厨長室の内部の全面並びに操舵機室などの電路をそれぞれ焼損したが、のち、いずれも修理された。
(原因)
本件火災は、オーストラリア東方沖合において、調理室でレンジを使用しててんぷらを揚げる調理作業中、同作業を中断してごみ投棄のために同室を無人にする際、火災防止に対する配慮が不十分で、レンジが消火されず、てんぷら鍋が過熱しててんぷら油に引火したことによって発生したものである。
(受審人等の所為)
B指定海難関係人が、オーストラリア東方沖合において、調理室でレンジを使用しててんぷらを揚げる調理作業中、同作業を中断してごみ投棄のために同室を無人にする際、レンジを消火しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対して勧告しないが、調理室でレンジを使用する際には、火災防止に対する配慮を十分に行うように努めなければならない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。