(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年2月20日23時30分
沖縄県泊漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八南開丸 |
総トン数 |
19.94トン |
登録長 |
14.95メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
345キロワット |
3 事実の経過
第十八南開丸(以下「南開丸」という。)は、昭和52年7月に進水したまぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、甲板下には船首方から順に燃料油タンク、魚倉、機関室、操舵機室及び魚倉が配置されていた。
機関室は、両舷側に沿って燃料油タンク、中央に主機、主機の船首方右舷側に主機駆動の発電機、冷却水ポンプなど、左舷側にディーゼル機関駆動の発電機、同室船首方に雑用水ポンプ、操舵機用潤滑油ポンプなど、同室船尾方にビルジポンプ、燃料油移送ポンプなどがそれぞれ配置されていた。
機関室内のビルジは、ビルジ溜まりからビルジポンプで吸引され、主機と左舷側燃料油タンクとの間に配管された外径30ミリメートル(以下「ミリ」という。)の塩化ビニル製排水管を通り、同室左舷側の外板に設けられたビルジ船外排出口から船外に排出されるようになっており、同排出口には呼び径20ミリの青銅鋳物製コックが取り付けられていた。
ビルジ船外排出口は、平素海面上に位置していたものの、燃料油をタンク満杯に積込んだ場合、喫水が約30センチメートル(以下「センチ」という。)深くなって同排出口が海面下に位置するようになっていた。
そして、A受審人は、建造時ビルジポンプの吸入側配管に逆止弁が取り付けられていたものの、いつしか同弁が取り外されていたことから、ビルジ船外排出用コックが閉鎖されずにビルジ船外排出口が海面下になった場合、逆流した海水が同ポンプを経て機関室内に浸入することを知っていた。
A受審人は、平成4年7月から約1年間南開丸の機関長として乗り組んだのち、再度同7年6月同船の機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理に当たり、機関室内のビルジ排出作業について、ビルジポンプを全自動にすると逆止弁が取り外されていたことから海水が逆流して浸入し、同ポンプが頻繁に運転されることから、同ポンプを手動にし、ビルジが溜まっていればビルジ船外排出用コックを開けて同ポンプを運転し、ビルジの排出が終了したのち、同ポンプを停止して同コックを閉鎖するようにしていた。
こうして、南開丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、同12年1月7日15時00分泊漁港を発し、沖縄島南方の漁場に至って操業を行ったのち翌月18日17時00分同漁港に帰港したものの、魚市場の岸壁が空いていなかったことから水揚げなどを後日行うこととし、同漁港の西側の岸壁に係船した。
これより先、A受審人は、同日12時00分入港に備えてビルジの排出作業を行ったものの、手慣れた作業なので手違いはあるまいと思い、ビルジ船外排出用コックの閉鎖を十分に確認することなく、同コックを半開にしたまま同作業を終了していた。
南開丸は、翌19日係船場所を移動して13時00分魚市場の岸壁に係船し、23キロリットルの燃料油の積込みを開始した。
A受審人は、燃料油の積込み作業を平素行っている業者に任せ、蓄電池などの電源を全て遮断し、ビルジ警報が作動しない状態として帰宅した。
南開丸は、無人のまま係船されていたところ、燃料油を積み込んだことから喫水が深くなってビルジ船外排出口が海面下になり、半開となったままのビルジ船外排出用コックを経て逆流した海水が機関室内に浸入し続け、翌20日23時30分那覇新港船だまり防波堤灯台から真方位153度310メートルの前示係船地点において、機関室に船底から高さ約170センチまで浸水し、主機のシリンダヘッドまで水没していることが、水揚げ作業のために帰船したA受審人により認められた。
当時、天候は雨で風力4の北風が吹いていた。
A受審人は、ポンプ車の手配をするとともに僚船から排水ポンプを借用し、排水作業を行うなど事後の措置に当たった。
その結果、南開丸は、機関室内の機器が冠水して濡れ損を生じ、のち主機、発電機などの修理が行われ、塩化ビニル製排水管を鋼管に取り替え、ビルジ船外排出口付近で逆U字形に立ち上げ、同管が常に海面上となるように配管し、海水の浸入を防止するための措置が講じられた。
(原因)
本件遭難は、機関室内のビルジ排出作業が終了した際、ビルジ船外排出用コックの閉鎖の確認が不十分で、同コックが半開となったまま燃料油の積込みを行い、喫水が深くなって海面下となったビルジ船外排出口から、同コックを経て逆流した海水が機関室内に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関室内のビルジ排出作業が終了した場合、燃料油をタンク満杯に積込むと喫水が深くなり、ビルジ船外排出口が海面下になることを知っていたのであるから、ビルジ船外排出用コックを経て逆流した海水が機関室内に浸入することのないよう、同コックの閉鎖を十分に確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、手慣れた作業なので手違いはあるまいと思い、同コックの閉鎖を十分に確認しなかった職務上の過失により、同コックが半開となったまま燃料油の積込みを行い、喫水が深くなって海面下となったビルジ船外排出口から、同コックを経て逆流した海水の機関室内への浸入を招き、同室内の機器を冠水させて濡れ損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。