(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年1月28日09時30分
広島県呉港広区
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船清竜丸 |
総トン数 |
692トン |
全長 |
70.31メートル |
幅 |
11.20メートル |
深さ |
4.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
清竜丸は、昭和60年10月に進水した、船尾船橋機関室型の鋼製産業廃棄物運搬船で、上甲板下は、船首から順に、甲板長倉庫とその下部の船首槽、貨物倉、貨物ポンプ室、機関室及び操舵機室などにそれぞれ区画され、貨物倉の下方の二重底が1番から3番のバラストタンクと燃料油タンクとなり、機関室上方の船尾楼に居住区及び操舵室をそれぞれ配置していた。
機関室は、長さが約9.5メートルで上下2段に分けられ、下段には、中央付近に主機を、同機の両舷やや船首寄りに発電機用補助機関(以下「補機」という。)をそれぞれ据え付け、両補機の船首側には消防兼雑用ポンプ及びビルジ兼バラストポンプ(以下「バラストポンプ」という。)などを備え、上段の左舷側に主配電盤を設置していた。
バラストポンプは、全揚程20メートルにおける吐出量が毎時130立方メートルの電動自吸式うず巻ポンプで、バラスト調整や貨物槽の洗浄などに使用されており、バラスト排出管系は、バラスト排出弁から呼び径100ミリメートルの排出管を経たのち、左舷側外板の船底から高さ約3メートルの排出口に取り付けられた船外吐出弁に至るようになっており、同弁は満載時に水線下になることから、逆止めアングル弁が使用されていた。
A受審人は、平成9年11月から機関長として乗り組み、機関の運転管理に当たり、主機及び補機の船外吐出弁については、運転の都度開閉操作を行っていたものの、バラストポンプのバラスト排出弁及び船外吐出弁をいずれも常時開弁して使用していたので、同10年の定期検査工事以来整備が行われていない船外吐出弁が、いつしか開弁したまま固着していることを知らなかった。
清竜丸は、1箇月に2回大阪港で屎尿を積込み、紀伊半島南方沖合で投棄することを繰り返していたほか、1箇月ないし2箇月に1回程度写真現像廃液の輸送にも従事していたもので、A受審人ほか5人が乗り組み、写真現像廃液約800キロリットルを積載し、船首1.4メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同12年1月25日正午ごろ大阪港を発し、揚地の福岡県苅田港に向かったものの、揚地の都合で基地である呉港で待機することになり、翌26日02時ごろ同港広区に着き、呉港阿賀沖防波堤灯台から真方位122度1,700メートルの地点において錨泊した。
そして、A受審人は、同月に入ってバラストポンプ運転時にグランド部からの漏水が多くなったことに気付き、点検の結果パッキン箱が著しく腐食摩耗したことを認め、船舶所有者にケーシングの新替え手配を依頼したところ、ポンプ型式などが不明なのでケーシングを陸揚げするよう指示されていたことから、同月27日朝、同ポンプ海水吸入弁を閉めたうえ、一等機関士と2人でポンプの開放作業に取り掛かり、09時過ぎにケーシングの取り外しを終えた。
ところで、A受審人は、錨泊時の喫水ではバラストポンプ船外排出口が海面よりわずかに上に出ているだけで、船体が動揺すると同排出口が海面に漬かる状況にあったが、ケーシングを取り外したときには同ポンプへの海水の逆流がなかったので大丈夫と思い、船外吐出弁のみならず、バラスト排出弁を閉弁して同排出口からの浸水防止措置をとることなく、11時過ぎ機関室内の機器をすべて停止し、他の乗組員全員とともに伝馬船に乗り込んで離船した。
こうして、清竜丸は、バラストポンプを開放したまま船内を無人として錨泊中、船体動揺によって同ポンプ船外排出口が海面に漬かるようになったため、海水がバラスト排出管系を逆流して機関室に浸入し続け、翌28日09時30分前示錨泊地点において、付近を通りかかった漁船に、船尾が著しく沈下しているのを発見された。
当時、天候は晴で風力1の西南西風が吹き、港内は穏やかであった。
自宅で待機していたA受審人は、漁船に異状を知らされた船舶所有者から連絡を受け、伝馬船で清竜丸に赴いたところ、機関室上段の主配電盤下部付近まで浸水しているのを認め、呉海上保安部に救助を要請した。
浸水の結果、清竜丸は、主機、補機、発電機及び各種電気機器等に濡損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件遭難は、広島県呉港において錨泊中、バラストポンプをケーシング陸揚げのために開放したまま船内を無人とする際、同ポンプ船外排出口からの浸水防止措置が不十分で、船外吐出弁のみならず、バラスト排出弁が開弁されたまま、船体動揺によって同排出口が海面に漬かるようになり、海水がバラスト排出管系を逆流して機関室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、バラストポンプをケーシング陸揚げのために開放したまま船内を無人とする場合、錨泊時の喫水で船体が動揺すると、バラストポンプ船外排出口が海面に漬かる状況にあったから、海水が機関室に浸入することのないよう、船外吐出弁などを閉弁して同排出口からの浸水防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、ケーシングを取り外したときには同ポンプへの海水の逆流がなかったので大丈夫と思い、船外吐出弁などを閉弁して同排出口からの浸水防止措置をとらなかった職務上の過失により、船体動揺によって同排出口が海面に漬かるようになり、海水がバラスト排出管系を逆流して機関室の浸水を招き、主機、補機、発電機及び各種電気機器等に濡損を生じさせるに至った。