(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年11月11日03時15分
金華山南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五十三龍房丸 |
総トン数 |
65トン |
全長 |
31.03メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
698キロワット |
3 事実の経過
第五十三龍房丸(以下「龍房丸」という。)は、オッターボード式沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A、B両受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首2.5メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成11年11月8日20時30分石巻港を発し、翌9日01時30分ごろ金華山南東方50海里ばかりの漁場に至って操業を開始した。
ところで、龍房丸は、船首楼甲板上の船尾側に操舵室を有し、船尾楼甲板上はインナーブルワーク2縦列によりほぼ3等分に仕切られ、中央部の船尾側がスリップウェイとなっており、同甲板の船首側両舷には機関室へのコンパニオンがあり、同コンパニオン船尾側囲壁に高さ約10センチメートルのコーミングが設けられ、そこに高さ約1.2メートル幅約60センチメートルのアルミ製の水密扉(以下「水密扉」という。)が設置され、同扉は上下左右計4本の押えハンドルで閉鎖されるようになっており、右舷側コンパニオンの同扉から同室の出入りは主機排気管、冷却清水タンク等が設置されていて不自由なことから、専ら左舷側コンパニオンの同扉から同室の出入りがされていた。
A受審人は、翌10日23時30分北緯37度33.5分東経142度07.5分の地点で昇橋し、1人で操船に当たり、針路を000度(真方位、以下同じ。)に定め、2.8ノットの曳網速力で進行した。
A受審人は、平素しけ模様のときでも操業を行っていたものの、このとき北北西方からのうねりのため船体が動揺して水密扉の押えハンドルが外れ、船尾楼甲板に打ち込んだ海水が左舷側コンパニオンの扉から機関室内に浸入するおそれがあったが、同扉の開閉はB受審人に任せているので大丈夫と思い、同人に同扉の閉鎖を十分に行うよう指示しなかった。
B受審人は、翌11日01時10分点検のため機関室に入り、同時25分点検を終えて同室を出る際に水密扉を閉鎖したものの、うねりのため船体の動揺により同扉の押えハンドルが外れるおそれがあったが、荒天ではないのでいつものように2本の押えハンドルで同扉を閉鎖すればよいものと思い、同ハンドル4本すべてで閉鎖するなど、同扉の閉鎖措置を十分に行わなかったので、その後船体の動揺と振動で押えハンドルが外れ、同扉が開放状態となったことに気付かなかった。
A受審人は、03時00分本件発生地点付近に達したとき、同針路で、機関を微速力前進として揚網を開始したところ、折からの北北西方の風とうねりのため船首が右方に落とされ始めたので、左舵一杯としたものの舵効が得られず、次第に船首が東方を向き、わずかな後進行きあしをもって揚網中、03時15分北緯37度43.2分東経142度07.5分の地点において、船首が090度を向首していたとき、左舷船尾方からのうねりの打込みを受け、船尾楼甲板上に大量の海水が滞留して左大傾斜となり、左舷側コンパニオンの水密扉から多量の海水が機関室に流入した。
当時、天候は曇で風力3の北北西風が吹き、同方向からの大きなうねりがあった。
その結果、主機フライホイールが機関室内に流入した海水をかき揚げ、1号発電機、各種電動機、分電盤、始動機盤等に濡れ損が生じ、主機遠隔操縦装置が使用不能となったので、操業を断念して石巻港に帰港した。
(原因)
本件遭難は、夜間、金華山南東方沖合において、北北西方からの風とうねりを受けながら操業中、船尾楼甲板上の機関室に通じる水密扉の閉鎖措置が不十分で、船体の動揺により同扉の押えハンドルが外れ、同甲板に打ち上げた海水が同室内に浸入したことによって発生したものである。
閉鎖措置が適切でなかったのは、船長が、機関室入口の水密扉の閉鎖を十分に行うよう機関長に指示しなかったことと、機関長が、同扉の閉鎖を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、金華山南東方沖合において、北北西方からの風とうねりを受けながら操業する場合、うねりによって船体が動揺し、船尾楼甲板に海水が打ち込むおそれがあったから、機関室に通じる水密扉の閉鎖を十分に行うよう機関長に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同扉の開閉は機関長に任せているので大丈夫と思い、同扉の閉鎖を十分に行うよう機関長に指示しなかった職務上の過失により、船体の動揺で同扉の押えハンドルが外れ、船尾楼甲板に打ち込んだ海水が機関室内に浸入し、同室内の1号発電機、各種電動機、分電盤、始動機盤等に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、金華山南東方沖合において、北北西方からの風とうねりを受けながら操業中、機関室内の点検のため船尾楼甲板の水密扉から出入りする場合、船体の動揺により同扉の押えハンドルが外れるおそれがあったから、同扉の閉鎖を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、荒天でないのでいつものように同扉を閉鎖すればよいものと思い、同扉の閉鎖を十分に行わなかった職務上の過失により、同室内への海水の浸入を招き、前示の濡れ損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。