(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年12月2日06時40分
長崎県三重式見港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十七山田丸 |
総トン数 |
153トン |
全長 |
38メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十七山田丸(以下「山田丸」という。)は、鋼製以西底引き網漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、平成11年10月26日09時00分僚船第十八山田丸と長崎県三重式見港を発し、同日23時ごろ東シナ海の漁場に至って二そう底引き網の操業を続け、越えて同年12月1日操業を打ち切り、船首2.80メートル船尾3.30メートルの喫水をもって、22時10分大瀬埼灯台から260度(真方位、以下同じ。)28海里の地点を発航して同港に向かった。
翌2日05時40分A受審人は、伊王島灯台から295度9.3海里の地点に達したとき、単独で船橋当直に就き、船位を確認したところ予定より1海里ばかり北に偏位していたことから、針路を080度に定めて手動操舵とし、機関を全速力より少し減じた航海速力にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
ところで、三重式見港は、長崎県が平成5年度から港域付近に沖防波堤の築造工事を行っていて、同11年度には第5工区に着手し、陸岸に接した第1工区の300メートルの防波堤は一部が完成し、その南東端から約100メートル離し、ほぼ南東に延びる750メートルの防波堤を第2工区ないし第5工区に分けて築造し、その中央部220メートルばかりがほぼ完成し、海面上約7メートルの高さにかさ上げされていた。そして、11年度の工事として他の工区のかさ上げのほか、ノ瀬灯標から109.5度1,650メートルの地点を起点とし、そこから132度の方向へ65メートルにわたって水中部のブロックを設置中で、その上面はほぼ最低低潮面の高さまでかさ上げされており、この工事区域周辺には、ゼニライト製の15−P型の浮標灯やL−2型の標識灯が10数個設置されていた。
A受審人は、1回の出漁が約2箇月であり、三重式見港を基地として出入港していたので、沖防波堤工事が施行されており、海岸から延びる分やそこから南東に延びて海面上にかさ上げされた分については知っていたものの、同防波堤の工事区域についての調査を行っていなかったので、水中部のブロックが延長されていることを知らなかった。
06時00分A受審人は、機関を7.0ノットの微速力前進とし、三重式見港三重中央灯浮標(以下「中央灯浮標」という。)を船首より少し右舷に見て続航し、06時32分ノ瀬灯標から176度710メートルの地点に達したとき、沖防波堤のかさ上げ部を左舷船首11度1,600メートルに視認し、通常は中央灯浮標を左舷に見て転針していたところ、同かさ上げ部と中央灯浮標とのほぼ中間に向首していたが、僚船の第十八山田丸が右舷後方を同航していたことから、同針路のまま入航することとし、間もなく入港配置を令した。
06時35分A受審人は、船首方1,000メートルばかりのところから左舷方にかけて沖防波堤の工事区域を示す浮標灯や標識灯を視認できる状況にあったが、前路の確認を十分に行うことなく、操船に気をとられていたので、これらの浮標灯などに気付かず、同時39分かさ上げ部をほぼ正横に見るようになったとき、南防波堤の少し左方に向く029度に転針し、水中のブロックに向首する態勢となって間もなく、工事区域の浮標灯を認めたが、小型漁船の刺網の灯火と思い、左転して替わしたのち、06時40分029度に戻したとき、ノ瀬灯標から100度1,660メートルの地点において、水中のブロックに原速力のまま乗り揚げた。
当時、天気は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、日出時刻は07時05分であった。
乗揚の結果、山田丸は船底を凹損したほかソナーを損傷し、沖防波堤のブロック8個が欠損した。
(原因)
本件乗揚は、水路の調査及び確認が不十分で、工事中の水面下の防波堤に向け転針進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、港口付近で防波堤築造中の三重式見港に入航する場合、工事区域の調査やこれを表示する標識灯などの確認を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、工事区域の調査や標識灯などの確認を行わなかった職務上の過失により、工事中の水面下の防波堤に向け転針進行して乗揚を招き、船底及びソナーを損傷させ、沖防波堤のブロックに欠損を生じさせるに至った。