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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年長審第12号
件名

旅客船フェリー五島乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年6月20日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(亀井龍雄、平野浩三、河本和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:フェリー五島船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:フェリー五島一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:フェリー五島二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)

損害
船首部水線下を破損、乗組員1名及び乗客13人が切創、打撲、頸部捻挫等

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月24日20時40分
 長崎県五島列島前小島南東岸

2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリー五島
総トン数 1,262.58トン
全長 73.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット

3 事実の経過
 フェリー五島は、長崎県佐世保港と上五島諸港間の定期航路に就航する船首船橋型鋼製カーフェリーで、A、B及びC受審人ほか14人が乗り組み、旅客63人及び車両2台を乗せ、船首3.1メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成12年6月24日20時08分小値賀島の小値賀港を発し、宇久島の平漁港に向かった。
 A受審人は、発航前から霧のため視程が1海里弱となっていたが、運航基準で定められた視程400メートル以下の発航中止条件には達していなかったので、スケジュールどおり離岸し、20時13分港外に出たところで出港部署配置を解き、引き続き自ら操船の指揮を執り、通常の3人の当直要員に加え、B、C両受審人を2台のレーダーにそれぞれつけて見張りに当たらせ、機関を全速力前進にかけて14.5ノットの対地速力で、甲板員の手動操舵によって進行した。
 20時22分A受審人は、五島神浦出シ東灯浮標から126度(真方位、以下同じ。)0.2海里の地点で、針路を007度に定めて進行し、その後視程が300メートルほどに悪化していることを知り、航行中止条件である視程500メートル以下になっていたが、霧は場所によって濃淡があり、平漁港の視程約700メートルとの情報を得ていたので入港には支障がないものと思い、直ぐ西方の前方錨地で錨泊するなど航行を中止することも、安全な速力に減速することも、また、霧中信号を行うこともなく、原速力のまま進行した。
 A受審人は、20時27分半相瀬灯台から154度1.63海里の地点に達したとき、針路を予定どおり前小島に向首する033度に転じ、小値賀瀬戸を北上し、間もなく、レーダーで正船首及びやや左舷側約1.5海里に5隻ほどの漁船集団の映像を認め、その後同漁船集団の方位が変わらなかったのでその東側を航過するよう、同時31分半相瀬灯台から117度1.4海里の地点で針路を前小島のやや東方に向く036度に転じ、レーダーから離れたが、片山、江林両受審人に対し、漁船や前小島等の物標の方位、距離その変化等を適宜報告するよう十分に指示することなく、単に前小島の手前0.4海里で知らせと命じ、前方を注視しながら進行した。
 A受審人は、漁船集団の最も近い灯火を左舷側0.1海里に視認して航過したのち、20時37分半相瀬灯台から075度2.2海里の地点で、B受審人から前小島0.4海里という報告を受け、いつものように前小島の西方を通過するよう、直ちに左舵5度と共に半速力前進を令して徐々に左転を始め、いつもより船位が右偏していることは知っていたものの、偏位はわずかで通常どおりの針路で前小島との離岸距離が十分にとれるものと思い、レーダーによって自船と前小島との相対位置関係を調べるなど船位の確認を行うことなく、いつものように針路013度を令した。
 B受審人は、レーダーを0.75マイルレンジにセットしており、A受審人が左舵5度を令したとき、漁船を避けるため通常より右偏していたので前小島南東部は左舷船首約20度方向にあったが、A受審人は船位を把握していて適宜入航航路に乗せていくものと思い、前小島の方位、距離その変化等自船と前小島との相対位置関係を適宜報告するなど船長の補佐を十分に行うことなく、1.5マイルレンジに変えて出港船の有無など入航航路の状況に注意を向けていたので、A受審人が針路013を令したとき前小島南東部に向首することに気付かなかった。
 C受審人は、A受審人は本航路の経験豊富で船位を把握しており、左舵5度を令したとき適宜入航航路に乗せていくものと思い、レーダーを引き続き監視して前小島の方位、距離その変化等自船と前小島との相対位置関係を適宜報告するなど船長の補佐を十分に行うことなく、レーダーから離れたので、A受審人が針路013を令したとき前小島南東部に向首することに気付かなかった。
 A受審人は、前小島南東部に向首していることに気付かないまま進行し、20時38分半微速力前進を令して前方を注視しながら続航し、同時40少し前前小島に著しく接近して正面100メートルほどに崖が見えたとき、機関停止を令し、同時に右舵一杯を令したが、替わしきれないと思い、船体側面を当てないよう直ぐに取り消したところ、20時40分平港防波堤南灯台から139度0.4海里の地点で、速力が8ノットに低下したとき、原針路のまま前小島南東部に乗り揚げた。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は200メートルであった。
 乗揚の結果、船首部水線下を破損したが、自力離礁して着桟し、のち修理され、乗組員1人及び乗客13人が切創、打撲、頸部捻挫等の傷を負った。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、霧で視界が制限された五島列島宇久島南方の小値賀瀬戸において、同島平漁港に向かって航行中、船位の確認が不十分で、前小島南東岸に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が当直航海士に対し、レーダーによって自船と前小島との相対位置関係を適宜報告するよう十分に指示しなかったことと、当直航海士が、レーダーによって自船と前小島との相対位置関係を適宜報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、霧で視界が制限された五島列島宇久島南方の小値賀瀬戸において、同島平漁港に向かって航行中、前小島の手前で転針する場合、漁船避航のため船位が右偏していたのであるから、レーダーによって自船と前小島との相対位置関係を調べるなど船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、偏位はわずかで通常どおりの針路で前小島との離岸距離が十分にとれるものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、前小島に向首したまま進行して乗揚を招き、船首部水線下を大破させ、乗組員1人及び乗客13人に切創、打撲、頸椎捻挫等の傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、霧で視界が制限された五島列島宇久島南方の小値賀瀬戸において、同島平漁港に向かって航行中、操船の指揮を執る船長の補佐を行う場合、レーダーによって自船と前小島との相対位置関係を適宜報告するなど船長の補佐を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船長は船位を把握しており、適宜入航航路に乗せていくものと思い、船長の補佐を十分に行わなかった職務上の過失により、乗揚を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、霧で視界が制限された五島列島宇久島南方の小値賀瀬戸において、同島平漁港に向かって航行中、操船の指揮を執る船長の補佐を行う場合、レーダーによって自船と前小島との相対位置関係を適宜報告するなど船長の補佐を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船長は経験豊富なので、適宜入航航路に乗せていくものと思い、船長の補佐を十分に行わなかった職務上の過失により、乗揚を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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