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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成11年門審第123号
件名

漁船潮音丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年6月6日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、橋本 學、相田尚武)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:潮音丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船首部船底外板に破口を伴う亀裂

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年6月28日16時00分
 山口県見島南岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船潮音丸
総トン数 19トン
登録長 17.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 375キロワット

3 事実の経過
 潮音丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.9メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成11年6月28日12時55分山口県玉江漁港を発し、隣接する萩港に寄港して氷を積み込んだのち、13時30分同港を発航して同県見島北方沖合25海里付近の漁場へ向かった。
 ところで、A受審人は、連日13時ごろ漁場へ向けて出港し、夜間に操業を行い、翌日10時ごろ帰港して水揚げを行う操業形態を繰り返し、操業中に約4時間の睡眠及び水揚げ中に約1時間の仮眠をとり、漁港と漁場間の航行に際しては同人が1人で操舵操船に当たりながら、運航全般に渡って指揮を執っていたが、既に操業が約10日間に渡って続いていたことから徐々に疲労が蓄積し、1日5時間ばかりの睡眠時間では疲労を回復することができない状況であった。また、当日、所用があって、水揚げ中の仮眠をとることができなかったことも重なって、睡眠が十分でない状態のまま出港したものであった。
 発航後、A受審人は、操舵室内で、舵輪の左舷側後方に置いた高さ約60センチメートルの折り畳み式のいすに腰をかけ、時折、操業中の漁船を避航しながら航行し、14時18分萩相島灯台から098度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき、針路を327度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力とし、対馬海流の影響で4度右方へ圧流されながら、自動操舵により進行した。
 15時10分A受審人は、見島南方8海里ばかりの地点に達したころ、前路に避航を要する漁船などがいなくなったことから眠気を覚えるようになり、そのまま1人で当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとることなく続航中、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、A受審人は、居眠りに陥ったまま、右方に圧流されて見島に向けて進行していることに気付かず、16時00分わずか前ふと目覚めて眼前に迫った同島を認め、急いで機関を中立とし、次いで全速力後進にかけたが、効なく、16時00分見島灯台から180度400メートルの地点において、潮音丸は、原針路、原速力のまま、同島南岸の岩礁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近海域には北東方に流れる約1ノットの海流があり、海上は平穏であった。
 乗揚の結果、船首部船底外板に破口を伴う亀裂(きれつ)を生じたが、自力離礁し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、山口県見島南方沖合を漁場へ向けて航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同島南岸の岩礁に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県見島南方沖合において、連日の操業により疲労が蓄積したまま、睡眠が十分でない状態で漁場へ向けて航行中、眠気を催した場合、1人で操舵操船に当たっていると居眠りに陥るおそれがあったので、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、折からの海流で4度右方へ圧流されながら、見島に向かって進行し、同島南岸の岩礁への乗揚を招き、船首部船底外板に破口を伴う亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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