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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年神審第110号
件名

漁船第一冨美丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年6月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正、西田克史、前久保勝己)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:第一冨美丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第一冨美丸漁労長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
船底外板に凹損、舵及び推進器翼に曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月3日00時45分
 兵庫県浜坂港付近

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一冨美丸
総トン数 99トン
全長 37.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 617キロワット

3 事実の経過
 第一冨美丸(以下「冨美丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、A、B両受審人ほか7人が乗り組み、ほたるいか漁の目的で、船首1.7メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成12年2月1日19時20分兵庫県浜坂港を発し、22時00分同港北西方沖合の漁場に至って操業を開始し、翌2日21時過ぎ漁獲物約1トンを獲て操業を終えた。
 ところで、B受審人は、冨美丸が一昼夜操業して水揚げする操業形態を1週間前から繰り返し行っており、この間、漁労長として、操業指揮に当たるだけでなく、港と漁場との往復航海の船橋当直にも単独で就いていたので、疲労が蓄積し、睡眠不足の状態にあった。
 A受審人は、操業を終え、帰航することとしたが、B受審人に船橋当直を行わせると居眠り運航となるおそれがあったのに、いつも同受審人に船橋当直を任せていたので大丈夫と思い、代りの者を充てるなど、当直体制を適切に確保することなく、B受審人に単独の船橋当直を任せ、自室に退いて休息した。
 一方、B受審人は、船橋当直を任されたが、疲労とかなりの眠気を感じていたのに、何とか我慢できるものと思い、当直を行えば居眠りに陥るおそれがあることをA受審人に報告しなかった。
 こうして、B受審人は、単独で船橋当直に就き、21時30分長尾鼻灯台から342度(真方位、以下同じ。)23.8海里の地点において、発進と同時に針路を120度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.4ノットの対地速力で進行した。
 B受審人は、23時40分網代埼灯台から346度8.8海里の地点に至り、GPSプロッターで浜坂港まで11海里となったことを確かめたのち、操舵輪後方のいすに腰掛けて当直を続けていたところ、いつしか居眠りに陥り、同港付近に向首したまま続航中、翌々3日00時45分浜坂港北防波堤灯台から078度1,570メートルの地点において、冨美丸は、原針路、原速力のまま浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 A受審人は、乗揚の衝撃で直ちに昇橋し、事後の措置に当たった。
 乗揚の結果、船底外板に凹損、舵及び推進器翼に曲損を生じたが、僚船によって引き下ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、兵庫県浜坂港北西方沖合の漁場から帰航する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港付近の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直体制を適切に確保しなかったことと、漁労長が、船橋当直を行えば居眠りに陥るおそれがあることを船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、兵庫県浜坂港北西方沖合の漁場から帰航する場合、漁労長が操業指揮のほか往復航海の船橋当直に当たるなど、ほとんど休息せずに睡眠不足の状態にあることを知っており、同人に船橋当直を行わせると居眠り運航となるおそれがあったから、代りの者を充てるなど、船橋当直体制を適切に確保すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、いつも漁労長に任せていたので大丈夫と思い、船橋当直体制を適切に確保しなかった職務上の過失により、単独で船橋当直中の漁労長が居眠りに陥り、浜坂港付近の浅礁に向首進行して乗揚を招き、船底外板に凹損、舵及び推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、夜間、兵庫県浜坂港北西方沖合の漁場から帰航するにあたり、単独の船橋当直を任された場合、疲労とかなりの眠気を感じていたから、当直を行えば居眠りに陥るおそれがあることを船長に報告すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、何とか我慢できるものと思い、その旨を報告しなかった職務上の過失により、単独で船橋当直中、いつしか居眠りに陥り、浜坂港付近の浅礁に向首進行して乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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