(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月24日16時30分
大阪港大阪区第5区
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船長宝丸 |
総トン数 |
107トン |
全長 |
42.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
279キロワット |
3 事実の経過
長宝丸は、主に鋼材運搬に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.2メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成11年9月23日15時00分大阪港大阪区第3区の大正内港に入港し、翌日の積荷役に備えて停泊した。
翌24日A受審人は、停泊中の08時のテレビ報道で、台風18号が同日夕方には大阪港に最接近すること及び大阪府全域に暴風警報が発表されていることを知った。
ところで、台風18号は、24日03時00分現在、九州西岸至近の海上にあって、中心気圧945ヘクトパスカルで、北東方に時速35キロメートルで進み、風速毎秒25メートル以上の暴風半径が100海里であり、同台風が山陰沖を北東に進む影響で、瀬戸内海の最大風速が毎秒35メートルになると予想され、06時20分大阪管区気象台が大阪府全域に暴風、波浪警報を発表していた。
A受審人は、大正内港を発航することにしたが、台風の最接近時が過ぎるまで、大阪港大阪区第5区の大和川河口付近にある大銑産業株式会社の専用桟橋(以下「荷役桟橋」という。)に着桟していても大丈夫と思い、危険な状態に陥ることのないよう、風浪の影響の少ない海域で待機するなど、台風の接近に対する配慮を十分に行うことなく、10時20分荷役桟橋へ向けて転係を開始した。
11時00分A受審人は、右舷錨を投下して右舷正横後30度方向に2節ほど錨鎖を延出し、船首を090度(真方位、以下同じ。)に向けて荷役桟橋に左舷付けで係留し、同時10分から荷役を行っていたところ、台風の接近に伴って南寄りの強風や西方からの風浪により、次第に船体の動揺が大きくなり、時々切断した係船索を補強しながら荷役を続け、16時00分鉄くず350トンを積載し荷役を終了した。
16時10分A受審人は、風が南南西方に変わったものの、船体の上下運動が更に激しくなり、南方ないし西方からの風浪が高まりやすい荷役桟橋での着桟にようやく危険を感じ、風浪の影響の少ない大正内港へ避泊することとし、離桟準備に取りかかった。
A受審人は、舵及び主機を種々に使用しながら、船尾を右方に振って桟橋面と45度ばかりの交角とし、16時28分船首2.2メートル船尾3.3メートルの喫水となった長宝丸の全ての係船索を解らんし、機関を後進にかけるとともに揚錨を開始したところ、増勢した強い南南西風と西方からの風浪で船尾が右方に圧流され、16時30分大阪南港沖防波堤灯台から095度900メートルの地点において、長宝丸は、その船首が000度に向いたころ、大和川河口の浅所に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力6の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、波高2メートルを超える風浪があった。
乗揚の結果、舵を損傷したが、来援したサルベージ船によって引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、大阪港大阪区第3区の大正内港を発航するにあたり、台風の接近に対する配慮が不十分で、大阪区第5区の荷役桟橋へ転係し、荷役を終了して離桟したとき、強風と風浪とにより浅所に圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、大阪港大阪区第3区の大正内港を発航する場合、台風の接近に伴う、暴風警報が発表されていることを知っていたのであるから、船体が危険な状態に陥ることのないよう、風浪の影響の少ない海域で待機するなど、台風の接近に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、荷役桟橋に着桟していても大丈夫と思い、台風の接近に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、南方からの風浪が高まりやすい同桟橋へ転係し、荷役を終了して離桟したとき、強風と風浪とにより浅所に圧流されて乗揚を招き、舵に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。