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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年横審第15号
件名

貨物船エリエール1乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年6月13日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、長谷川峯清、甲斐賢一郎)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:エリエール1船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:エリエール1次席一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)

損害
船首部から中央部の船底外板に破口、浸水し、のち廃船

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Bの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月17日00時50分
 静岡県門脇埼付近

2 船舶の要目
船種船名 貨物船エリエール1
総トン数 499トン
全長 74.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 エリエール1は、専ら愛媛県三島川之江港から紙製品を積み出し、主に京浜港川崎区で揚げ荷の後、復航は古紙を積載して三島川之江港に向かう航海に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、古紙570トンを積載し、船首2.1メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成12年2月16日19時40分京浜港川崎区を発し、三島川之江港に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を自らとB受審人及び一等航海士とによる単独の4時間3直制とし、着岸時の就労体制は、荷役準備及び後片付けは全員で行い、荷役監督には一等航海士と自らが就き、B受審人には船体整備作業等に就くようにしており、16日の午後は整備作業に余裕があったことから同人に休息を与えていた。
 A受審人は、発航操船に引き続いて船橋当直に就き、東京湾を南下して神奈川県剱埼沖合に至ったところ、相模灘は南西方からのうねりがあって時化(しけ)模様であるから、伊豆半島の東岸沿いに航行することとし、22時15分剱埼灯台から127度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で、針路を静岡県門脇埼付近に向く242度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.8ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 23時00分A受審人は、城ケ島灯台から222度6.5海里の地点でGPSにより船位を求めたところ、海潮流の影響で実効針路が244度と右に偏位していたことから、門脇埼灯台から061度5.5海里の転針予定地点に乗るよう、針路を240度に転じ、機関回転数を全速力前進よりやや落とした260回転とし、243度の実効針路、11.7ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、23時45分通常の当直交代時刻になっても昇橋しなかったB受審人を起こし、間もなく昇橋してきた同人に、海図を見ながら、右に偏位するので当て舵をとって240度にしていること、機関回転数毎分260回転、約30分後に転針予定地点になること及び稲取沖合で燃料油をA重油に切り替えるよう機関部に連絡することなどを引き継ぎ、同時53分門脇埼灯台から062度11.0海里の地点で船橋当直を交代して降橋した。
 一方、B受審人は、A受審人に起こされ、衣服を整えただけで急いで昇橋し、引継ぎ事項を復唱して自動操舵のまま、船橋当直を交代し、扉や窓を締め切った船橋内が暖房により暖かい状況で、同当直を続けるうち、眠気を感じるようになったが、転針予定地点までまだしばらく時間的余裕があるので大丈夫と思い、ウイングに出て冷気に当たったり、顔を洗ったりして眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、24時の天気予報とニュースを聞くためにラジオのスイッチを入れ、船橋左舷側のいすに腰掛け、ラジオを聞いているうちいつしか眠気が深まり、翌17日00時15分ごろ居眠りに陥った。
 こうしてエリエール1は、00時22分門脇埼東北東方沖合の転針予定地点に達したものの、B受審人が居眠りしていてこれに気付かず、針路が転じられないまま門脇埼付近の海岸に向首進行中、00時50分門脇埼灯台から033度400メートルの地点の岩礁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力4の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、衝撃を感じて直ちに昇橋し、乗り揚げたことを知り、事後の措置にあたった。
 乗揚の結果、船首部から中央部にかけての船底外板に破口を生じ、船首水倉、脚荷水倉及び船倉に浸水し、のちに引き下ろされ、廃船となった。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、相模灘を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、転針予定地点で針路が転じられないまま、門脇埼付近の海岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、相模灘を西行中、船橋当直交代のためにA受審人に起こされて同当直を交代し、扉や窓が締め切った船橋内が暖房により暖かい状況で同当直を続けるうち、眠気を感じるようになった場合、ウイングに出て冷気に当ったり、顔を洗ったりして眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら、B受審人は、転針予定地点までまだしばらく時間的余裕があるので大丈夫と思い、船橋左舷側に置いてあるいすに腰掛け、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、転針予定地点で針路が転じられないまま、門脇埼付近の海岸に向首進行して乗揚を招き、船首部から中央部にかけての船底外板に破口等を生じさせ、引き下ろし後廃船とさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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