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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年仙審第1号
件名

漁船第八漁栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年6月5日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(東 晴二、喜多 保、大山繁樹)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第八漁栄丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
船体中央部右舷船底外板に凹損、右舷ビルジキールに曲損

原因
水路調査不十分

主文

 本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年2月19日10時20分
 千葉県銚子港黒生漁港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八漁栄丸
総トン数 119トン
全長 34.16メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 294キロワット

3 事実の経過
 第八漁栄丸(以下「漁栄丸」という。)は、まぐろはえなわ漁業に従事する鋼製漁船で、受審人Aほか12人が乗り組み、船首1.80メートル、船尾2.20メートルの喫水をもって、平成11年2月17日11時20分宮城県気仙沼港を発し、伊豆諸島鳥島沖の漁場に向かったが、翌18日22時00分北緯34度05分、東経141度18分付近に達したとき、ジャイロコンパスが故障したことから反転し、翌19日00時30分北緯34度26分、東経141度18分の地点で、修理のため千葉県銚子港第2漁船だまりの魚市場前岸壁に着岸する予定で、同港に向かった。
 ところで、A受審人は、4年ほど前一度銚子港に入港したことがあるだけであり、船に海図第57号(犬吠埼付近)及び海図第85号(銚子港)も、簡易港湾案内などの銚子港についての資料もなく、銚子港及び付近の概略が分かる海図第87号(東京湾至犬吠埼)を備えているだけであった。
 A受審人は、銚子港に近付けば水路状況が分かると思い、海図第87号により水路状況を確かめ、不明な点があれば海上保安部あるいは地元漁業協同組合に問い合わせるなどの十分な水路調査を行うことなく進行した。
 09時30分A受審人は、犬吠埼灯台から148度(真方位、以下同じ。)3.1海里の地点に達したとき、レーダーにより正船首少し左方4.2海里に防波堤入口を認めたが、このときも海図第87号により水路状況を確かめず、これを銚子港の目的岸壁に至る防波堤入口と思い込み、銚子港南部の黒生漁港の防波堤入口であることを知らないまま、針路を345度に定め、機関をそれまでの全速力前進から半速力前進に減じ、6.0ノットの対地速力で続航し、やがて同漁港防波堤入口を視認した。
 10時00分A受審人は、犬吠埼灯台から075度0.9海里の地点に達したとき、操舵室上屋の仮設の操船場所に移動し、自ら遠隔操舵に当たり、漁労長に操舵室での主機遠隔操作に当たらせ、その他の乗組員をそれぞれの入港配置に就かせ、同時10分同灯台から028度1.3海里の地点で、針路を黒生漁港防波堤入口に向く314度に転じ、機関を少しずつ減じながら進行し、同時15分同防波堤入口に差し掛かったとき、船首方は行き止まりとなっており、不審に思ったが、左方に水路が続いているように思われたことから、そのまま同入口を通過して左転し、機関を微速力前進に減じ、針路を左側の防波堤にほぼ沿う228度とし、正船首少し右方に水面上に孤立する岩を見ながら3.0ノットの対地速力で続航した。
 10時20分少し前A受審人は、前示岩が右舷側にかわるころ、右舵とし、10時20分針路を黒生漁港奥の船だまり入口に向く250度に転じたとき、犬吠埼灯台から007度1.4海里の地点において、同岩から延びた浅所に乗り揚げ、擦過した。
 当時、天候は曇で風力5の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は、乗揚後通船の船長から聞いて銚子港港域内の地元小型漁船が出入りする黒生漁港に入り込んだことを知った。
 乗揚の結果、船体中央部右舷船底外板に凹損を、右舷ビルジキールに曲損を生じ、他船により引き降ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、ジャイロコンパス修理のため、千葉県銚子港に向かうにあたり、備えていた海図第87号により水路状況を確かめるなどの水路調査が不十分で、同港南部の黒生漁港に入り込んだことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、4年程前に一度入港したことのある銚子港に向かい、同港第2漁船だまりの魚市場前岸壁への着岸を予定していた場合、備えていた海図第87号により水路状況を確かめ、不明な点があれば海上保安部なり、地元の漁業協同組合に問い合わせるなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、近付けば水路状況が分かると思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同港南部の黒生漁港に入り込んで浅所への乗揚を招き、船体中央部右舷船底外板に凹損を、右舷ビルジキールに曲損を生じさせた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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