(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月14日04時30分
沖縄県伊江島東方のさんご礁
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船漁宝丸 |
総トン数 |
7.9トン |
登録長 |
11.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
279キロワット |
3 事実の経過
漁宝丸は、延縄漁等に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人が2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成12年4月13日08時00分沖縄県具志漁港を発し、12時00分ごろ沖縄島東岸の安田漁港東方沖合の漁場に至って操業を開始し、きんめだい等約50キログラムを獲り、翌14日00時00分同漁場を発して帰途についた。
ところで、A受審人及びB指定海難関係人は、漁場への行き帰りには船橋当直を2時間交替として交互に休息を取っていた。そして、漁場到着後、1人が操船を行い、他の1人が長さ1,000メートルばかりの延縄を約10分かけて投縄し、1時間ほど漂泊して待っている間に次回の投縄の準備などを行い、その後約1時間かけて揚縄する漁法で、適宜、操船と漁労作業とを交替して繰り返し行っていたので、操業中に休息を取ることはほとんどできなかった。
A受審人は、発進後、B指定海難関係人を休息させ、単独で船橋当直に就き、沖縄島に沿って北方に向かって進行した。そして、辺戸岬を1.0海里ほど離して付け回し、01時28分辺戸岬灯台から335度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点で、GPSに伊江島灯浮標付近を目的地として設定し、針路を245度に定め、自動操舵として8.0ノットの対地速力で続航した。
02時00分A受審人は、辺戸岬灯台から258度4.3海里の地点に達したとき、自ら目覚めたB指定海難関係人に船橋当直を委ねることとしたが、同指定海難関係人が単独の同当直を長年経験していたことから、特に注意を与えるまでもないと思い、眠気を催したときには報告するよう指示することなく、船橋当直を任せた。
B指定海難関係人は、単独の船橋当直を引き継ぎ、船橋内右舷側の椅子に腰を掛け、同じ針路及び速力で、自動操舵により進行した。
03時50分B指定海難関係人は、備瀬埼灯台から048度3.3海里の地点に至り、目的地まで5海里ばかりとなり気が緩んだことと、操業中ほとんど休息を取っていなかったこととから眠気を催したが、漁場発進後2時間ほど睡眠を取っているので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、A受審人に報告するなどして、居眠り運航の防止措置を取らなかった。
漁宝丸は、いつしかB指定海難関係人が居眠りに陥り、伊江島東岸に向かって続航中、04時30分備瀬埼灯台から269度2.4海里の地点において、原針路、原速力のまま、同島東岸から拡延するさんご礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
乗揚の結果、推進器翼に曲損を生じ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、伊江島東方海域において、同島具志漁港に向けて帰港中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同島東岸から拡延するさんご礁に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対し、眠気を催した際の報告を指示しなかったことと、同船橋当直者が、眠気を催した際、船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、伊江島東方海域において、同島具志漁港に向けて帰港中、B指定海難関係人に船橋当直を委ねる場合、居眠り運航とならないよう、同指定海難関係人に対し、眠気を催した際には報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同指定海難関係人が単独の船橋当直を長年経験していたことから、特に注意を与えるまでもないと思い、眠気を催したときには報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同指定海難関係人が居眠りに陥り、同島東岸から拡延するさんご礁に向首進行して乗揚を招き、推進器翼に曲損を生じさせるに至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、伊江島東方海域において、単独で船橋当直に就き、同島具志漁港に向けて帰港中、眠気を催した際、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。