(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月15日17時30分
鹿児島県大川漁港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十豊徳丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
14.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
190 |
3 事実の経過
第十豊徳丸(以下「豊徳丸」という。)は、鹿児島県大川漁港を基地とし、網船など6隻から構成された中型まき網船団に所属するFRP製運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、平成12年3月14日16時30分同県口之島の西之浜漁港を僚船とともに発航し、同島西方沖合で操業を行ったのち、単独で同県枕崎港に向けて北上し、翌15日09時00分同港に入港して水揚げを行ったあと、空倉のまま、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、14時00分同港を発し、再び前示漁場に向かった。
ところで、15日午前東シナ海で発生した低気圧が急速に発達しながら北東に進み、11時35分鹿児島県全域に強風波浪注意報が発表され、薩摩半島南岸中央部に位置する大川漁港沖合においては、夕刻から南寄りの風浪が強まるおそれがあり、A受審人は、枕崎港に入港した際、そのことを友人から聞いて知っていた。
A受審人は、枕崎港港外に至り、種子島南方沖合を北上していた所属船団の漁ろう長に船舶電話をかけて操業予定を尋ねたところ、天候の悪化が予想されること及び網船の油圧機械が故障して修理を要することから、同船団の全船舶が大川漁港に戻るので豊徳丸も同漁港に向かい、係留場所の都合により網船が到着して入港するまで、同漁港港外で錨泊待機するよう指示されたので、針路を変更し、ゆっくりとした速力で同漁港に向け東行した。
15時20分A受審人は、大川漁港南西方沖合の、前瀬鼻灯台から228度(真方位、以下同じ。)1,200メートルの地点に達したとき、重さ約160キログラムの錨を水深35メートルの海底に投じ、直径30ミリメートルの合成繊維製錨索を船首のフェアリーダから100メートル延出し、フェアリーダの錨索接触部にロープで編んだ擦れ止めを取り付け、同索を船首部のビットに係止し、同時30分機関を停止して錨泊を開始した。
錨泊を開始したとき、A受審人は、毎秒9メートルばかりの南東風が吹き、さらに風浪が増大して錨索切断や走錨を生じるおそれがあったが、海面状態を見てこの程度の風浪であれば大丈夫と思い、レーダーを使用して船位の確認に当たるなど、守錨当直体制をとることなく、自らは操舵室後部の畳敷きの区画で、他の乗組員は同室後方の船員室でそれぞれ仮眠した。
A受審人は、その後、南東からの風浪が増大して船体の動揺と振れ回りが大きくなり、やがて錨索がフェアリーダとの接触部で擦れて切断されたものの、依然仮眠していたので、このことを察知できないまま、次第に陸岸に向けて圧流され、17時30分前瀬鼻灯台から276度1,900メートルの地点において、豊徳丸は、船首が315度を向いた状態で大川漁港西方の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力6の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、船底部からの衝撃で目が覚め、周囲の状況を見て乗り揚げたことを知り、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、船尾部船底外板に擦過傷及び推進器翼に曲損を生じたが、翌日の満潮時、僚船が投下した錨を利用して離礁したのち、僚船によって枕崎港に引き付けられ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、強風波浪注意報が発表中の鹿児島県大川漁港南西方沖合において、錨泊待機する際、守錨当直体制がとられず、錨索切断を察知できないまま、陸岸に向けて圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、強風波浪注意報が発表中の鹿児島県大川漁港南西方沖合において、錨泊待機する場合、風浪が増大して錨索切断や走錨を生ずるおそれがあったから、レーダーを使用して船位の確認に当たるなど、守錨当直体制をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、この程度の風浪であれば大丈夫と思い、レーダーを使用して船位の確認に当たるなど、守錨当直体制をとらなかった職務上の過失により、風浪が増大して船体の動揺と振れ回りが大きくなり、錨索がフェアリーダとの接触部で擦れて切断されたことを察知できないまま、陸岸に向け圧流されて同漁港西方沖合の浅礁への乗揚を招き、船尾部船底外板に擦過傷及び推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。