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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年門審第115号
件名

漁船幸洋丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年5月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、佐和 明、相田尚武)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:幸洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船首部及び船体中央部両舷の船底外板に亀裂を含む凹損

原因
針路選定不適切

主文

 本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月6日04時30分
 大分県保戸島東方

2 船舶の要目
船種船名 漁船幸洋丸
総トン数 19.99トン
登録長 14.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190

3 事実の経過
 幸洋丸は、船体中央からやや船尾寄りに操舵室を設けた、かつお一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか9人が乗り組み、生き餌を仕入れる目的で、船首0.80メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成11年9月6日01時00分愛媛県深浦港を発し、大分県津久見港に向かった。
 ところで、津久見港は、湾口を豊後水道に開く津久見湾の湾奥に位置し、同湾口の南部には高甲岩と保戸島とが約1,200メートル隔てて東西に並び、この間に干出岩などを含む浅礁域が拡延しているものの、浅礁域の間には小型船が通航可能な狭隘(きょうあい)な水道(以下「保戸島水道」という。)が存在しており、同水道の東縁には高さ約10メートルの岩があった。
 A受審人は、10年ばかり前からしばしば保戸島水道を通航して津久見港に入港し、その際、水ノ子島南方沖合に達したとき、いったん保戸島東端付近に向首し、同島まで約2海里に接近したころ、操舵室から同室上のレーダーを備えないオーニング付き操縦席(以下「上部操縦席」という。)に移動し、その後は同島や高甲岩などを目視して操船に当たり、更に同島に接近し同水道東縁の高さ約10メートルの岩を確認したあと、同岩を目標として針路を保戸島水道に向くおおよそ317度(真方位、以下同じ。)に転じ、同岩により偏位を確認しながら同水道を通航していた。
 A受審人は、発航操船に引き続き単独の船橋当直に当たって豊後水道を北上し、03時35分半水ノ子島灯台から209度1,200メートルの地点に達したとき、深浦港発航後、断続して降雨が続き、大分県北部及び中部には前日夕刻から大雨注意報が発表され、保戸島水道付近でも降雨により視界が制限されるおそれがあったが、慣れているので大丈夫と思い、同水道の通航を中止し、高甲岩東方沖合の広い海域に向く適切な針路を選定することなく、いつものとおり、針路を保戸島東端付近に向く299度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
 04時15分半少し過ぎA受審人は、高甲岩灯台から136度2.0海里の地点に差し掛かり、保戸島まで約2海里に接近したとき、レーダーで船位を確認したあと、操舵を手動に切り替えて上部操縦席に移り、その後、保戸島の明かりや高甲岩灯台の灯火などを見ながら西行し、同時25分半わずか前同灯台から183度1,300メートルの地点に至ったとき、雨足が強くなって視程が約50メートルに狭められ、保戸島の明かりや高甲岩灯台の灯火などが視認できなくなったので、機関回転数を少し落とし、7.0ノットの対地速力で続航した。
 間もなくA受審人は、平素、針路を保戸島水道に転じていた地点に達したものの、依然視界が制限されて同水道東縁の目標とする高さ約10メートルの岩が視認できず、保戸島水道に向けて転針ができないまま進行中、04時30分高甲岩灯台から229度1,200メートルの地点において、幸洋丸は、原針路、原速力のまま、保戸島東方の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は雨で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、船首部及び船体中央部両舷の船底外板に亀裂(きれつ)を含む凹損を生じ、船首水槽に浸水したが、自力で離礁して津久見港まで航行し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、断続して降雨が続く豊後水道において、大分県津久見港に向け水ノ子島南方沖合を西行する際、針路の選定が不適切で、狭隘な保戸島水道を通航する針路で進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、断続して降雨が続く豊後水道において、大分県津久見港に向け水ノ子島南方沖合を西行する場合、同県北部及び中部に大雨注意報が発表され、降雨により視界が制限されるおそれがあったから、狭隘な保戸島水道の通航を中止し、高甲岩東方沖合の広い海域に向く適切な針路を選定すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、慣れているので大丈夫と思い、同水道の通航を中止し、高甲岩東方沖合の広い海域に向く適切な針路を選定しなかった職務上の過失により、保戸島水道に接近したとき、雨足が強まって視界が制限され、目標としていた同水道東縁の岩が視認できず、保戸島水道に向けて転針ができないまま進行して保戸島東方の浅礁に乗り揚げ、船首部及び船体中央部両舷の船底外板に亀裂を含む凹損を生じさせ、船首水槽に浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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