(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年12月5日20時30分
能登半島珠洲岬沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
作業船第三十五明友丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
11.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
661キロワット |
3 事実の経過
第三十五明友丸(以下「明友丸」という。)は、鋼製の交通船兼作業船で、A受審人と同人の妻とが乗り組み、売船による回航の目的で、船首0.80メートル船尾2.10メートルの喫水をもって、平成11年12月1日19時00分関門港田野浦区を発し、石川県七尾港に向かった。
ところで、明友丸は、レーダーが故障していて使用できず、航海計器は磁気コンパスだけで、海図も備えられていない状況であったものの、A受審人は、七尾港に至る能登半島周辺海域を年4回ばかり航海していて水路事情を知っていたので、海岸に沿って目視により陸影や灯台などを確認していけば、目的地まで航行できると考え、回航を請け負うことにした。
A受審人は、関門海峡を通過したのち、船橋当直を妻と適宜交替し、食料などの購入に2回ほど寄港したほか、山陰から北陸地方の海岸に沿って昼夜航行し、越えて同月5日16時30分ごろ石川県輪島港西方3海里ばかりの鵜入漁港沖合に達し、そのころ雨が断続的に降り、気象情報からも視界が悪くなる状況であったうえ、目視によるほかに船位を確認する手段はなかったが、この海域を度々航海した経験があったことから、目視により何とか航行できるものと思い、明るいうちに付近の漁港などに仮泊して夜間航行を取り止めることなく、能登半島北岸に沿って東行を続けた。
20時12分A受審人は、禄剛埼灯台から039度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点に達したとき、針路を姫島礁灯台の沖合400メートルばかりに向く129度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行したところ、同灯台の東方に拡延している姫島礁に向首する状況となったが、このことに気付かないまま続航中、20時30分姫島礁灯台から035度400メートルの岩礁に、明友丸は、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、日没は16時36分であった。
乗揚の結果、船底外板に破口及び凹損などを生じ、翌日作業船により引き降ろされて近くの漁港に曳航され、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、雨により視界が悪化していたうえ、目視のほかに船位を確認する手段がない状況下、七尾港に向けて能登半島沿岸を航行するにあたり、夜間航行を取り止めず、夜間、姫島礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、雨により視界が悪化していたうえ、レーダーが故障中で目視のほかに船位を確認する手段がない状況下、七尾港に向けて能登半島沿岸を東行する場合、夜間に航行すると、険礁などに乗り揚げるおそれがあったから、明るいうちに付近の漁港などに仮泊して夜間航行を取り止めるべき注意義務があった。しかし、同人は、この海域を度々航海した経験があったことから、目視により何とか航行できるものと思い、夜間航行を取り止めなかった職務上の過失により、姫島礁に向首進行してこれに乗り揚げ、船底外板に破口及び凹損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。