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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年神審第71号
件名

貨物船わゆう丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年5月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正、西山烝一、前久保勝己)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:わゆう丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
船首部船底外板に破口を伴う凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月1日23時50分
 和歌山県地ノ島

2 船舶の要目
船種船名 貨物船わゆう丸
総トン数 498トン
全長 68.13メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 わゆう丸は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、水砕1,600トンを載せ、船首3.80メートル船尾4.75メートルの喫水をもって、平成12年4月1日21時00分大阪港を発し、加太瀬戸経由で和歌山下津港に向かった。
 A受審人は、21時35分ごろ大阪北防波堤灯台西方沖合で船橋当直を二等航海士に任せ、加太瀬戸で自ら操船することとし、同瀬戸の手前3海里の地点となったら知らせるよう、同航海士に指示し、降橋して休息した。
 A受審人は、23時34分地ノ島灯台から036度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点において、二等航海士から予定地点に達した旨の報告を受けて昇橋し、単独で船橋当直に就き、針路を216度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの南西流に乗じて11.2ノットの対地速力で進行した。
 定針後、A受審人は、代理店に電話連絡したのち、付近に通航船が見当たらないことから、両腕を舵輪に覆いかぶせ、もたれ掛かった姿勢で当直を行っていたところ、やがて気が緩み、眠気を催すようになったが、加太瀬戸への転針地点まで近いので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、ウイングに出て外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、同じ姿勢で当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
 A受審人は、23時44分半加太瀬戸への予定転針地点に達したものの、居眠りしていたので転針することができず、このころから潮流が増勢し、11.8ノットの対地速力となって、地ノ島に向首する同一針路のまま続航し、23時50分地ノ島灯台から038度100メートルの地点に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、加太瀬戸付近には1.2ノットの南西流があった。
 乗揚の結果、船首部船底外板に破口を伴う凹損などを生じたが、来援したサルベージ船によって引き下ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、加太瀬戸に向かって南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われないまま、地ノ島に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就いて加太瀬戸に向けて南下中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、ウイングに出て外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、加太瀬戸への転針地点まで近いので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、予定転針地点で転針することができず、地ノ島に向首したまま進行して乗揚を招き、船首部船底外板に破口を伴う凹損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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