(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月1日23時50分
和歌山県地ノ島
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船わゆう丸 |
総トン数 |
498トン |
全長 |
68.13メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
わゆう丸は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、水砕1,600トンを載せ、船首3.80メートル船尾4.75メートルの喫水をもって、平成12年4月1日21時00分大阪港を発し、加太瀬戸経由で和歌山下津港に向かった。
A受審人は、21時35分ごろ大阪北防波堤灯台西方沖合で船橋当直を二等航海士に任せ、加太瀬戸で自ら操船することとし、同瀬戸の手前3海里の地点となったら知らせるよう、同航海士に指示し、降橋して休息した。
A受審人は、23時34分地ノ島灯台から036度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点において、二等航海士から予定地点に達した旨の報告を受けて昇橋し、単独で船橋当直に就き、針路を216度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの南西流に乗じて11.2ノットの対地速力で進行した。
定針後、A受審人は、代理店に電話連絡したのち、付近に通航船が見当たらないことから、両腕を舵輪に覆いかぶせ、もたれ掛かった姿勢で当直を行っていたところ、やがて気が緩み、眠気を催すようになったが、加太瀬戸への転針地点まで近いので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、ウイングに出て外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、同じ姿勢で当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
A受審人は、23時44分半加太瀬戸への予定転針地点に達したものの、居眠りしていたので転針することができず、このころから潮流が増勢し、11.8ノットの対地速力となって、地ノ島に向首する同一針路のまま続航し、23時50分地ノ島灯台から038度100メートルの地点に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、加太瀬戸付近には1.2ノットの南西流があった。
乗揚の結果、船首部船底外板に破口を伴う凹損などを生じたが、来援したサルベージ船によって引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、加太瀬戸に向かって南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われないまま、地ノ島に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就いて加太瀬戸に向けて南下中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、ウイングに出て外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、加太瀬戸への転針地点まで近いので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、予定転針地点で転針することができず、地ノ島に向首したまま進行して乗揚を招き、船首部船底外板に破口を伴う凹損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。