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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年横審第7号
件名

貨物船第二高宝丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年5月24日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小須田 敏、黒岩 貢、長谷川峯清)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:第二高宝丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第二高宝丸甲板長

損害
船底外板に破口及び亀裂、のち全損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月18日02時20分
 静岡県神子元島北西岸沖

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二高宝丸
総トン数 490トン
全長 62.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 882キロワット

3 事実の経過
 第二高宝丸は、主として瀬戸内海の諸港と京浜港との間で砂利やスクラップなどの輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、スクラップ794トンを載せ、船首2.2メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成11年12月17日18時45分京浜港横浜区を発し、水島港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を、同人が07時30分から11時30分までと19時30分から23時30分までの時間帯に、次いでB指定海難関係人、一等航海士の順にそれぞれ単独の4時間3直制で行うことに決め、出航操船に引き続いて自らが同当直に就き、21時26分剱埼灯台から180度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点において、針路を235度に定め、機関を全速力前進にかけて9.9ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 23時30分A受審人は、門脇埼灯台から085度10.1海里の地点で、無資格のB指定海難関係人に船橋当直を引き継ぐこととしたが、平素から自船が伊豆半島東岸沖合を航行しており、同指定海難関係人にとって慣れた海域であったうえに船橋当直の経験が豊富であったことから、特別に指示をしなくても何かあれば報告があるものと思い、船位などに不安を感じたときには直ちに報告するよう指示することなく降橋し、自室で休息した。
 B指定海難関係人は、船橋当直に就いて間もなく、レーダーのスイッチを入れて3マイルレンジとしたところ、レーダー画面の中心から約1.5海里の範囲にわたって強い海面反射の映像を認めたので、海面反射除去と感度の調整を行ってこれを消したものの、これらの調整を過度に効かせたことから、同範囲外の探知映像までも消去する状態となったことに気付かないまま、翌18日00時22分半門脇埼灯台から145度5.2海里の地点において、針路を神子元島灯台に向かう221度に転じ、伊豆半島東岸に沿って南下した。
 02時05分B指定海難関係人は、神子元島灯台から040度2.5海里の地点において、レーダー画面上の正船首わずか左に神子元島及び神子元島無線方位信号所のレーダービーコン(以下「神子元島レーコン」という。)符号の映像を認めたため、そのままの針路で南下を続け、神子元島の約1.5海里手前に達したところで、同島の映像とその北方2海里に存在する横根と称する小島の映像との中間に向けて転針するつもりで続航した。
 B指定海難関係人は、そのころから転針後の状況を海図で確認するために神子元島灯台の灯光から目を離すようになり、02時11分神子元島灯台から039度1.6海里の地点に差し掛かり、転じる針路をレーダーで求めようとしたとき、船首方に映るはずの神子元島と横根の映像が見当たらず、左舷船首方2海里のところを最内端部とする神子元島レーコン符号の映像のみを認めたため、船位に不安を感じたものの、直ちにA受審人に報告しなかった。こうして同指定海難関係人は、自らの調整によりレーダー画面の中心寄りに存在する映像が消えていることに思い至らず、同画面上のレーコン符号の最内端部が神子元島と推測し、その方位が少しずつ左方に変わることから、このままの針路でも同島を左方に見ながら距離を保って航過するものと考え、A受審人による船位の確認が行われずに神子元島北西岸に向けて進行した。
 B指定海難関係人は、横根の映像を確認しようと引き続きレーダー画面を見詰めているうち、第二高宝丸は、02時20分神子元島灯台から350度150メートルの神子元島北西岸近くの暗礁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚を知ったA受審人は、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
 乗揚の結果、船底外板に破口及び亀裂を生じ、のち全損となった。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、伊豆半島東岸沖合を南下中、船位の確認が不十分で、神子元島北西岸近くの暗礁に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対し、不安を感じたときには報告するよう指示しなかったことと、同当直者が不安を感じたとき、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、伊豆半島東岸沖合を南下中、船橋当直を無資格者に単独で行わせる場合、不安を感じたときには直ちに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、無資格の船橋当直者にとって慣れた海域であったうえに船橋当直の経験が豊富であったことから、特別に指示をしなくても何かあれば報告があるものと思い、不安を感じたときには直ちに報告するよう指示しなかった職務上の過失により、船位に不安を感じた同当直者から直ちに報告が得られず、船位の確認を行うことができないまま神子元島北西岸近くの暗礁に向首進行して乗揚を招き、船底外板に破口及び亀裂を生じて全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、伊豆半島東岸沖合を南下中、船位に不安を感じた際、直ちに船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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