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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年横審第78号
件名

油送船第八しおた丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年5月18日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(葉山忠雄、小須田 敏、甲斐賢一郎)

理事官
古川隆一

受審人
A 職名:第八しおた丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
指定海難関係人
B 職名:第八しおた丸甲板員

損害
船底外板の凹損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月16日01時53分
 三重県菅島東岸沖合

2 船舶の要目
船種船名 油送船第八しおた丸
総トン数 497トン
全長 64.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力  735キロワット

3 事実の経過
 第八しおた丸(以下「しおた丸」という。)は、潤滑油の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、潤滑油1,060トンを載せ、船首3.0メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、平成11年12月15日12時00分和歌山下津港を発し、名古屋港に向かった。
 A受審人は、船橋当直体制を単独の3直4時間制とし、自らが04時から08時まで、次いで一等航海士、B指定海難関係人の順に行うことを決め、同日20時00分和歌山県勝浦沖で、船橋当直を一等航海士に引き継ぐ際、翌16日02時ごろ無資格のB指定海難関係人が船橋当直中に加布良古水道の狭い水道にさしかかることが予想されたが、自船は平素から加布良古水道を航行しており、同指定海難関係人が海上経験が豊富で、同水道の通航にも慣れていることから大丈夫と思い、同水道では自ら操船指揮を執るため同水道に近づいたことを報告するよう、一等航海士に指示することなく降橋し、自室で休息した。
 ところで、加布良古水道は、菅島とその南西方陸岸とに挟まれた長さ約4キロメートル、最狭の可航幅350メートルの狭水道で、伊勢湾に出入する比較的小型の船舶が利用しており、同水道の南口付近には北方位標識であるヨセマル灯浮標が設置されていた。また、菅島南岸には毎年9月ごろから5月ごろにかけて沖合1海里まで養殖施設が設置されていた。
 B指定海難関係人は、23時30分、大王埼から南西方10海里の地点で、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、翌16日01時30分石鏡灯台から076度(真方位、以下同じ。)510メートルの地点において、針路を318度に定め、機関を全速力前進として10.3ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 01時36分少し過ぎ、B指定海難関係人は、石鏡灯台から332度1,840メートルの地点に達したとき、レーダー映像により加布良古水道に接近したことを知ったが、A受審人にこのことを報告することに思い至らず、同受審人の昇橋が得られないまま続航し、船位の確認が十分に行われなかった。同指定海難関係人は、加布良古水道に向けて転針する際の操舵目標としていたヨセマル灯浮標が折から陸岸の灯火に紛れていて視認することができないまま、レーダーにより正船首方向に認めた浮遊物らしき映像を避けようと少しずつ右転を繰り返して進行した。
 その後もB指定海難関係人は、加布良古水道に近づいたことをA受審人に報告しないでいて、船位の確認が十分に行われず、菅島東岸に沿って北上し、01時52分少し前菅島灯台から103度550メートルの地点で、加布良古水道へ向かう転針地点を行き過ぎていることに気付き、同時53分少し前、反転して同地点に戻ろうと左舵一杯を取って回頭中、しおた丸は、01時53分菅島灯台から061度540メートルの浅所に、279度に向いたとき、原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は、乗揚の衝撃で目覚め、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
 乗揚の結果、船底外板に凹損を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、加布良古水道に向けて航行する際、船位の確認が不十分で、菅島東岸沖合の浅所に向かって進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、加布良古水道に近づいたことを報告させるよう、船長が次直の一等航海士に指示しなかったことと、無資格の船橋当直者が同水道に近づいたことを船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、B指定海難関係人の当直中に加布良古水道にさしかかることが予想される場合、同水道では自ら操船指揮を執るため同水道に近づいたことを報告するよう、次直の一等航海士に指示すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、B指定海難関係人の海上経験が豊富で、加布良古水道の通航にも慣れていることから大丈夫と思い、同水道に近づいたことを報告させるよう、次直の一等航海士に指示しなかった職務上の過失により、船位の確認ができないまま進行して乗揚を招き、船底外板に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、船橋当直に就いて加布良古水道に向け航行中、同水道に接近したことを船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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