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平成12年広審第99号
件名

貨物船第八興陽丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年4月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(横須賀勇一、竹内伸二、工藤民雄)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第八興陽丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第八興陽丸一等機関士 

損害
船底外板全体に多数の凹損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月29日21時35分
 瀬戸内海 山口県徳山下松港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八興陽丸
総トン数 151トン
全長 38.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 294キロワット

3 事実の経過
 第八興陽丸(以下「興陽丸」という。)は、専ら山口県徳山下松港、愛媛県三島川之江港間において苛性ソーダなどの輸送に従事する船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、苛性ソーダ65立方メートル及び珪酸ソーダ70立方メートルを載せ、船首2.0メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成12年3月29日20時50分徳山下松港を発し、三島川之江港へ向かった。
 A受審人は、船橋当直を同人、機関長及び一等機関士の3人による輪番として単独3時間交代制で行うこととし、徳山下松港を積み地として月に約12航海昼夜の別なく出入港を繰り返し、同港の水路事情については承知し、同港への出入港に際しては大型船の航路を避けて、専ら岩島と粭島間の狭い水路を常用航路としていた。そして、両島沿岸は、沖合まで浅礁が広がり可航幅が約200メートルに狭められていたうえ、しばしば漁船と遭遇するところであった。
 ところが、A受審人は、離岸操船を終えて徳山市晴海町岸壁西側の水路に沿って航行し、21時10分岩島灯台から023度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点で、昇橋してきたB指定海難関係人が港内航行に慣れていたので、同人に操船を行わせても大丈夫と思い、自ら港内操船の指揮を執ることなく当直を任せて下橋した。
 こうして、B指定海難関係人は、法定灯火を表示して港内を南下し、21時13分岩島灯台から022度2.9海里の地点に達したとき、針路を岩島と粭島間の水路中央に向く198度に定め、機関を全速力前進にかけ8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
 21時21分B指定海難関係人は、岩島灯台から024度1.8海里の地点に達したとき、レーダーで右舷前方1.5海里付近に漁船らしい映像を探知し、その後同方向に紅灯を認め、同時26分紅灯を示した小型船が自船の前路に接近していることを認めたが、船長に報告して昇橋を求めることなく、針路を右に転じて212度とし、機関の回転を下げ速力を7.0ノットに減じて続航するうち同船が船首方向を左に替わったので、同時30分岩島灯台から025度1,200メートルの地点で、岩島と粭島間を通過する予定進路に戻すため、針路を186度として進行中、突然、同船が粭島の手前で反転し、緑灯を見せて接近し始めたので、不安を感じたものの、依然、船長に報告して昇橋を求めずに続航した。
 21時33分B指定海難関係人は、岩島灯台から043度600メートルに達して岩島沖の浅礁まで300メートルに接近していたが、近づいてくる小型船に気を取られ、船位の確認が行われないまま、速力を減じて再び右舵をとったところ、岩島周辺に散在する浅礁域に向首する状況となり、同時34分小型船が右転したのを認め、左舵をとって回頭中、興陽丸は21時35分岩島灯台から060度250メートルの地点において、船首が180度を向いたとき、6.0ノットの速力で岩島沖の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力1の西風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期で付近には北へ流れる微弱な潮流があった。
 A受審人は、乗揚げの直後に昇橋し、事後の措置にあたった。
 乗揚の結果、興陽丸は、船底外板全体に多数の凹損を生じたが、のちタグボートの支援を受けて離礁し、修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、徳山下松港において、浅礁が拡延する岩島と粭島間の水路に向かって航行中、船位の確認が不十分で、岩島東端の浅礁に進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、夜間、船長が、徳山下松港の出港操船に際し、自ら操船しなかったことと、船橋当直者が、他船の接近を認めた際、船長に報告して昇橋を求めなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人が、夜間、徳山下松港を出港する場合、自ら操船にあたるべき注意義務があった。しかるに、同人は、港内航行に慣れていた無資格者に操船を行わせても大丈夫と思い、自ら操船にあたらなかった職務上の過失により、船位の確認が行われないまま進行して岩島東端の浅礁に乗揚げを招き、船底外板全体に多数の凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、徳山下松港の岩島と粭島間の水路に向け進行中、他船の接近を認めた際、船長に報告して昇橋を求めなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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