(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月6日17時25分
長崎県九十九島湾
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート
ワイアット・アープ号 |
プレジャーボートフォレスト |
全長 |
3.16メートル |
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登録長 |
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2.73メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
106キロワット |
86キロワット |
3 事実の経過
ワイアット・アープ号(以下「ワ号」という。)は、3人乗りFRP製水上オートバイで、平成12年8月6日12時45分長崎県佐世保市相浦港からモーターボートに積み込まれ、13時00分高後埼灯台から北方約1.8海里に位置する九十九島湾内の黒小島南岸に運搬され、同島南岸沖合において、A受審人が1人で乗り組み、水上オートバイフォレスト(以下「フ号」という。)と共に遊走した。
ところで、A受審人は、7月中旬から九十九島湾内で同好の仲間と共に水上オートバイなどによる海洋レジャーを楽しんでいたところ、当日の日曜日も行うこととし、モーターボート1隻水上オートバイ2台で遊走したり、水上オートバイ同士で飛沫の掛け合いなどを行った。
A受審人は、水上オートバイで5分ないし10分間遊走すると海岸に戻って同乗者を交代させたり、操船を交代して休息をとるなどして何度も楽しみ、17時20分ごろ、同乗者1人を前部座席に乗せ、その後方から操縦ハンドルを握り、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、海岸から200メートルばかりのところに出かけ、フ号と遊走したり飛沫の掛け合いなど楽しんでいたとき、フ号が接近し過ぎて危険を感じたりしたことから、夕方になったので同時24分少し過ぎ遊走を終えるつもりで黒小島の海岸に向かった。
17時24分50秒A受審人は、黒小島島頂から191度(真方位、以下同じ。)100メートルの海岸の水際から25メートル沖合の地点に至ったとき、最後の遊走をするつもりで、針路を260度として発進し、増速しながら進行した。
ところで、A受審人は、発進後海岸線に沿って100メートルばかり進行したところで左に旋回するつもりであり、発進時には、自船の左舷船首60度30メートルのところに停留中のフ号を認め、同船の追従を感じていたのであるから、その動静を十分に監視すべきであった。そして同船の動静が確認できないときには旋回を中止するなどの措置をとるべきであった。
17時24分53秒A受審人は、同針路で、速力が毎時35キロメートルに達したころ、左舷後方からフ号が自船を追走し始め、同分57秒フ号の船首が左舷船尾端正横3メートルのところまで迫って著しく接近した態勢となったが、フ号が追従したとしても近距離に接近していないと思い、後方を振り向いて動静監視を行っていなかったので、このことに気付かず、続航し、同分59.5秒左一杯に急ハンドルをとったところ、17時25分黒小島島頂から237度170メートルの地点において、ワ号が左方に約120度回頭したとき、ワ号の左舷中央部にフ号の船首が前方から約60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
また、フ号は、3人乗りFRP製水上オートバイで、B受審人が1人で乗り組み、船首尾とも0.15メートルの喫水をもって、同日13時頃から黒小島南岸沖合でワ号と遊走した。
17時24分53秒B受審人は、同乗者1人を乗せ、海岸線に沿って進行中のワ号の左舷船尾方に位置して追従するつもりで黒小島島頂から194度130メートルの地点を発進し、約30メートル前方のワ号に追いつく態勢で同船の船尾に向けてスロットルを全開にして進行した。
ところで、B受審人は、その後の行動について、A受審人の意思を確認しないでワ号を追走し始めたのであるから、同船や周囲の状況を厳重に見極め、ワ号が急旋回するなどの予期しない動きに対して、衝突を避けるための船間距離を確保しておくべきであった。
17時24分56秒B受審人は、ワ号との距離が約10メートルまで接近したものの、これ以上著しく接近して追従するとワ号の予期せぬ動きに対して衝突を避けるための措置をとる余裕のない状況となるおそれがあったが、同船は同針路同速力で進行するものと思い、同船との距離に十分余裕をもつことなく接近し、同分57秒自船の船首がワ号の左舷船尾端正横約3メートルの距離に位置して並走状態で追従していたところ、同時24分59.5秒ワ号が突然左方に急旋回して自船の進行方向に進行してきたがどうすることも出来ず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ワ号は左舷中央部に亀裂を生じ、同乗者が左下腿開放粉砕骨折により左下腿切断の負傷をした。一方フ号は左舷船首部に亀裂を伴う破口を生じ、両船とものち修理された。
(原因)
本件衝突は、長崎県九十九島湾において、ワ号が、動静監視不十分で、追従するフ号の進行方向に急転舵したことと、フ号が、船間距離が不十分で、ワ号に著しく接近したこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県九十九島湾において、発進時に停留するフ号を認めて右方の海岸線至近に沿って進行する場合、やがて左方に旋回する予定で後方からの同船の追従の気配を感じていたのであるから、同船に対する動静監視を行うべき注意義務があった。しかしながら、フ号が近距離に接近していないと思い、同船に対する動静監視を行わなかった職務上の過失により、フ号が左舷後方から著しく接近して追従していることに気付かず、同船の進行方向に急転舵して衝突を招き、ワ号の左舷中央部に亀裂を生じさせ、同乗者に左下腿開放粉砕骨折の負傷を負わせ、同下腿切断とさせるに至り、フ号の左舷船首部に亀裂を伴う破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県九十九島湾において、先行するワ号に追従する場合、著しく接近した状態で追従すると、ワ号の急激な動きにより同船が自船の進行方向に急転舵してきたとき、衝突を避けるための措置を執れないおそれがあったから、同船と十分余裕のある船間距離を確保すべき注意義務があった。しかしながら、同人はワ号がそのまま直進するものと思い、同船と十分余裕のある船間距離を確保しなかった職務上の過失により、ワ号に著しく接近して追従中、同船が自船の進行方向に進行したとき、衝突を避けるための措置をとることができずに衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。