(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月13日15時06分
五島列島宇久島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁業取締船海星丸 |
漁船大幸丸 |
総トン数 |
498.95トン |
4.9トン |
登録長 |
46.50メートル |
11.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
882キロワット |
338キロワット |
3 事実の経過
海星丸は、中央船橋型漁業取締船で、船長C及びA受審人ほか12人が乗り組み、水産庁の漁業指導監督官1人を乗せ、船首2.3メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、平成11年5月11日15時00分鹿児島県串木野港を発し、九州西方海域における漁業取締りの巡視に向かった。
C船長は、船橋当直体制を、0−4直二等航海士及び甲板員、4−8直一等航海士及び甲板員、8−0直三等航海士及び甲板員の2人3直体制としていたが、三等航海士が同年4月に免状を取得したばかりであったので、当時自分も8−0直に入り同人の指導を行っていた。
同月13日C船長は、監督官から指示された五島列島宇久島西方海域を巡航中、12時00分五島白瀬灯台から321度(真方位、以下同じ。)30.4海里の地点で、A受審人に船位、針路、速力、周囲の他船、特に漁船の状況、監督官から指示された目的地点等を引き継ぎ、当直を交替して降橋した。
A受審人は、漁船を認めたときにはその操業状況に注意を払いながら進行し、14時00分五島白瀬灯台から354度18.3海里の地点で、針路を222度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、西寄りの風波を右舷から受けて220度の実航針路及び10.2ノットの実航速力で続航した。
15時02分A受審人は、五島白瀬灯台から320度13.3海里の地点に達したとき、右舷船首40度1.8海里に前路を左方に横切る態勢で接近する大幸丸を初認したが、同船が高速力なので自船の前路を無難に航過していくものと思い、その後、その方位変化を確認するなど動静監視を十分に行わなかったので、衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かないまま進行した。
A受審人は、方位が変わらないまま大幸丸と接近したが、速やかに右転するなど同船の進路を避けることなく進行し、15時06分少し前更に接近したとき危険を感じて左舵一杯としたが、効なく、15時06分五島白瀬灯台から317度13.2海里の地点において、船首が192度を向いたとき、海星丸の右舷船首部が、原速力のまま、大幸丸の左舷船首部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の西南西風が吹き、視界は良好であった。
また、大幸丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、よこわ曳縄漁の目的で、船首0.5メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同月13日02時00分五島列島宇久島の平漁港を発し、同島西方沖合漁場に向かった。
B受審人は、04時30分漁場に至って操業を開始し、14時45分操業を終えて後片付けをしたのち、同時50分五島白瀬灯台から307度18.1海里の地点を発進して帰途につき、針路を102度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、西寄りの風波を船尾から受けて21.5ノットの対地速力で進行した。
14時59分B受審人は、五島白瀬灯台から312度15.3海里の地点で左舷船首20度3.3海里に前路を右方に横切る態勢で接近する海星丸を初認したが、自船は高速力なので同船の前路を無難に航過していくものと思い、操舵室右舷側の椅子に前方を向いて腰掛け、うつむいた姿勢で翌日の漁に使うサビキの作製を始め、その後、同船に対する動静監視を十分に行わないまま進行した。
B受審人は、15時02分五島白瀬灯台から314度14.4海里の地点に達したとき、海星丸の方位が変わらないまま距離が1.8海里となり、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況となったが、動静監視を行っていなかったのでこのことに気付かず、警告信号を行うことなく、更に接近しても行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行し、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海星丸に損傷はなく、大幸丸は船首部を破損したが、のち修理され、B受審人が胸部打撲傷等を負った。
(原因)
本件衝突は、五島列島宇久島西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、海星丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る大幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大幸丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、五島列島宇久島西方沖合において、漁業取締りのため航行中、前路を左方に横切る態勢で接近する大幸丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、大幸丸が高速力で進行しているので無難に前路を航過していくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、大幸丸の進路を避けることなく進行して衝突を招き、大幸丸の船首部を大破させ、B受審人に胸部打撲傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、五島列島宇久島西方沖合を帰航中、前路を右方に横切る態勢で接近する海星丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は高速力で進行しているので海星丸の前路を無難に航過していくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。