(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月1日20時05分
大分県佐伯湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八金比羅丸 |
漁船大扇丸 |
総トン数 |
18トン |
4.4トン |
全長 |
22.70メートル |
11.70メートル |
登録長 |
18.98メートル |
9.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
160 |
80 |
3 事実の経過
第三十八金比羅丸は、まき網船団付属のFRP製漁船(火船)で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.50メートル船尾1.70メートルの喫水をもって、平成11年8月1日19時05分大分県二又漁港の野崎船だまりを発し、僚船の火船3隻とともに佐伯湾内の漁場に向かった。
ところで、第三十八金比羅丸は、豊後水道及び佐伯湾において、周年、中型まき網漁業に従事しており、当日は、同船のほか、網船及び運搬船各1隻並びに火船として第十二金比羅丸、第三十六金比羅丸及び第八十三金比羅丸(以下、第三十八金比羅丸については「金比羅丸」といい、その他は号数で呼称する。)の計6隻で船団を構成し、夜間、佐伯湾でいわしやあじなどの漁獲を目的として操業することにしていた。
金比羅丸の操舵室には、前面に3面の窓があって中央が旋回窓となっており、右舷側に操縦席が設けられて操舵装置及び機関遠隔操縦装置が設置され、また、同室前部には、上段に右舷側から主レーダー及びソナー3台が、下段に副レーダー及び潮流計が、更に左舷側には、魚群探知機2台及びGPSプロッタがそれぞれ設置されていた。
A受審人は、操縦席でいすに腰を掛けて操船に当たり、法定の灯火を表示し、同席正面にある主レーダーを0.75海里レンジに、副レーダーを3海里レンジにしてそれぞれ作動させ、19時15分竹ケ島灯台から204度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点において、野崎鼻を通過したところで、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、3台のソナーのうち最も左舷側にあるソナーを使用して周囲約300メートルの範囲で魚群探索を始め、遠隔管制器による手動操舵により、適宜の針路で竹ケ島東方に向けて北上した。
19時24分A受審人は、竹ケ島灯台から123度0.8海里の地点において、機関回転数を毎分1,500に上げ、魚群探索が可能な最高速力の15.0ノットまで増速し、左右に大きく蛇行しながら魚群探索を行い、GPSプロッタに表示された竹ケ島北東方の前夜に操業した地点に向けて進行した。
19時36分A受審人は、竹ケ島灯台から032度2.1海里の地点に達し、付近海域で広範囲に魚群探索を行ったものの、魚群を発見することができなかったため、同時46分同海域を離れ、前々夜操業した竹ケ島北北西方に向かって西進したが、南寄りの風が強くなってきたことに加えて雨が強くなり、レーダー画面が雨や海面反射の影響を大きく受けるようになったことから、FTC及びSTCの調整を行ったところ、画面の中心付近では映像がほぼ表示されなくなった。
19時54分A受審人は、竹ケ島灯台から342度2.0海里の地点に至り、付近海域で蛇行や旋回を繰り返して約10分間にわたり魚群探索を行ったものの、ここでも濃い魚影を探知することができず、南寄りの風が一段と強くなったことから、すでに第三十六号が集魚を始めていた佐伯湾南部の有明浦に向け、魚群探索を行いながら南下することにした。
こうして、A受審人は、有明浦に向けて転舵するに当たり、レーダー見張りを十分に行うことができなかったものの、ほぼ西方に向首した自船の左舷前方に大扇丸の灯火を視認し得る状況であったが、ソナーで魚群の反応を見ることに気を取られ、転舵方向に対する見張りを十分に行わなかったので、同船の灯火に気付かず、ソナーを見ながら左転を始め、ソナーの針路表示がSSWからSに切り替わったところで舵を中央に戻し、20時04分竹ケ島灯台から337度1.9海里の地点において、針路を180度に定めたところ、右舷船首7度380メートルのところで投縄中の大扇丸に対して衝突のおそれを生じさせ、同船の船尾に向けて接近する態勢となったが、このことにも気付かないまま続航中、同時05分わずか前、ほぼ正船首至近に迫った大扇丸の後部作業灯を認め、機関回転数を下げてクラッチを中立とし、右舵一杯をとったが、効なく、20時05分竹ケ島灯台から334度1.65海里の地点において、金比羅丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が大扇丸の船尾部に後方から28度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力5の南風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、金比羅丸の船首部が大扇丸の操舵室後端付近まで乗り揚げた状態となって停止したので、船首部に出て大扇丸の状況などを確認したが、同船船長Bを発見することができず、機関を後進にかけて大扇丸から離れた上で同人を探したところ、B船長の声を聞いて海中に投げ出された同人を発見し、自ら海中に飛び込んで同人に救命浮環を結び付け、自船に収容しようとしたが、収容することができず、無線で僚船に救助協力を要請し、20時20分第八十三号が到着してようやく同人を船内に収容することができた。
また、大扇丸は、はえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、B船長(二級小型船舶操縦士免状〈5トン限定〉受有)が1人で乗り組み、操業の目的で、同日18時30分大分県佐伯港石間浦の船だまりを発し、佐伯湾内の漁場に向かった。
ところで、大扇丸のはえなわ漁は、はもの漁獲を目的としたもので、通常は17時ないし17時30分ごろ出漁し、18時00分ごろから湾内の漁場で操業を始め、船尾甲板において装餌しながら1鉢1,000メートルのはえ縄約10鉢分を約3ノットの速力で順次投縄し、約1時間30分を要して投縄を終え、20時00分ごろから揚縄に取り掛かり、5ないし6時間を要して揚縄を終える操業形態を採っていた。
B船長は、法定の灯火を表示して佐伯湾を北上し、レーダーを0.75海里レンジとして作動させ、竹ケ島北北西方の漁場に到着したところで、同灯火を消灯して操舵室前面壁に取り付けた24ボルト60ワットの前部作業灯1個と、操舵室天井後端左舷側の、甲板上の高さ1.60メートル(海面上の高さ2.28メートル)のところに取り付けた24ボルト60ワットの後部作業灯1個をそれぞれ点灯して操業を始め、船尾甲板において釣針に生き餌の小あじを掛け、右舷船尾から順次投縄しながら進行した。
B船長は、自動操舵装置を自動操舵モードに、針路設定ダイヤルを磁針路158度(真針路152度)にそれぞれ設定し、船尾甲板において遠隔管制器を使用して遠隔操舵に当たり、大入島唐船鼻の東方約2,000メートルのところを、針路を152度とし、機関を最低回転数として3.0ノットの速力で続航した。
こうして、B船長は、船尾甲板で投縄を続けていたところ、20時04分竹ケ島灯台から333.5度1.7海里の地点において、左舷船尾35度380メートルのところの金比羅丸が、突然左転して左舷船尾方から自船に向けて接近する状況となったが、衝突を避けるための措置をとることができないまま、大扇丸は、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、金比羅丸は、船首部に擦過傷などを生じ、のち修理され、大扇丸は、船尾部などを大破して浸水し、船首部だけを海面上に突き出した半没状態となり、のち廃船とされ、B船長(昭和8年2月20日生)が、左足大腿骨及び左肋骨骨折などを負って海中に投げ出され、病院に運ばれたが、溺水による死亡と検案された。
(原因)
本件衝突は、夜間、大分県佐伯湾において、魚群探索中の第三十八金比羅丸が、転舵方向に対する見張り不十分で、大扇丸に対して近距離のところで転舵し、同船に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、大分県佐伯湾において魚群探索中、転舵する場合、転舵方向に存在する他船を見落とさないよう、転舵方向に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、ソナーによる魚群探索に気を取られ、転舵方向に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、低速力で投縄中の大扇丸の灯火に気付かず、同船に対して近距離のところで転舵し、同船に向け進行して衝突を招き、第三十八金比羅丸の船首部に擦過傷を生じさせ、大扇丸の船尾部などを大破させ、B船長を溺水により死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。