(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月18日14時45分
長崎県唐舟志漁港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八正栄丸 |
貨物船コリアンパール |
総トン数 |
12.00トン |
4,937トン |
全長 |
19.30メートル |
115メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
382キロワット |
3,353キロワット |
3 事実の経過
第八正栄丸(以下「正栄丸」という。)は、船体ほぼ中央部に操舵室を有し、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾1.70メートルの喫水をもって、平成10年10月18日13時00分長崎県唐舟志漁港を発し、同港東方沖合の漁場に向かった。
13時03分A受審人は、銭島灯標から356度(真方位、以下同じ。)1,900メートルの地点で、針路を091度に定め、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行し、その後、操舵室後部に設けた板の間に、腰を掛けていか釣り漁具の準備作業に取りかかった。
14時25分A受審人は、琴埼灯台から078度17.3海里の地点に達したとき、左舷船首86度2.6海里のところに、前路を右方に横切る態勢のコリアン パール(以下「コ号」という。)を視認したが、同船とはまだ距離があるので、自船に接近するまで時間的に余裕があるものと思い、引き続いて同船に対する動静監視を十分に行うことなく、板の間に腰を掛けていか釣り漁具の準備作業を続けた。
14時41分A受審人は、琴埼灯台から079.5度20.4海里の地点に達したとき、同方位1,000メートルのところまで接近したコ号が視認でき、その後、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然動静監視不十分で、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま続航した。
A受審人は、衝突のおそれがある態勢で接近するコ号に気付かないまま、原針路、原速力で進行中、14時45分琴埼灯台から081度21.4海里の地点において、正栄丸の左舷船首部に、コ号の右舷船首部が後方から35度の角度をもって衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北北西風が吹き、視界は良好であった。
また、コ号は、航行区域を遠洋区域とする船尾船橋型の貨物船で、船長B及び二等航海士Cほか14人が乗り組み、コンテナ247個を積載し、船首5.60メートル船尾6.70メートルの喫水をもって、同月18日10時50分大韓民国釜山港を発し、京浜港に向かった。
11時50分C二等航海士は、三島灯台から328度20.2海里の地点で、前直の三等航海士から船橋当直を引き継ぎ、針路を126度に定め、機関を全速力前進にかけて13.8ノットの対地速力で自動操舵により進行し、14時00分ごろ周囲に他船の船影を認めなくなったことから、レーダーを待機状態として続航した。
14時41分C二等航海士は、琴埼灯台から078度20.6海里の地点に達したとき、右舷船首59度1,000メートルのところに、前路を左方に横切る態勢の正栄丸を視認でき、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、針路を転じるなり、速力を減じるなりして同船の進路を避けないまま続航した。
C二等航海士は、衝突のおそれがある態勢で接近する正栄丸に気付かず、原針路、原速力のまま進行中、前示のとおり衝突した。
B船長は、船橋当直者から衝突の事実を知らされず、このことに気付かないまま、京浜港に向かって航行中、同日16時30分ごろ海上保安部の航空機からの無線連絡で、正栄丸と衝突した旨を知らされ、その後、長崎県厳原港に寄港して船体を調査し、右舷船首部に新しい擦過傷を認めたところから、衝突の事実を知り、事後の措置にあたった。
衝突の結果、正栄丸は、左舷船首部外板に亀裂(きれつ)などを生じたが、のち修理され、コ号は、右舷船首部外板に擦過傷を生じた。
(原因)
本件衝突は、長崎県唐舟志漁港東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、コリアン パールが、見張り不十分で、前路を左方に横切る第八正栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八正栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県唐舟志漁港の東方沖合において、単独の船橋当直にあたって漁場に向けて航行中、前路を右方に横切る態勢のコリアン パールを視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船とはまだ距離があるので、自船に接近するまで時間的に余裕があるものと思い、引き続いて同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近するコリアンパールに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま進行して同船との衝突を招き、自船の左舷船首部外板に亀裂などを生じさせ、コリアン
パールの右舷船首部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。