(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年6月29日07時35分
関門海峡西口
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三長浜丸 |
総トン数 |
498トン |
全長 |
65.02メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
船種船名 |
貨物船ソナムNo.8 |
総トン数 |
1,009.00トン |
全長 |
60.733メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
882キロワット |
3 事実の経過
第三長浜丸(以下「長浜丸」という。)は、船尾船橋型砂利採取運搬船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、平成11年6月29日05時15分関門港小倉区砂津泊地を発し、06時15分大藻路岩灯標から064度(真方位、以下同じ。)1,600メートルの砂利採取海域に至り、右舷錨鎖3節を延出して錨泊し、左舷側から海砂採取用サクションパイプを海底に降ろし、水中作業に従事している船舶が表示する法定の形象物を掲げ、同時30分ごろから採取作業を開始した。
ところで、A受審人は、海砂採取作業中は船橋において海底から吸引されて海水とともに倉内に吐出される砂の状態を監視し、小石などが混じり始めると、船首揚錨機のところで待機しているB指定海難関係人に、適宜錨鎖の伸縮を指示して採取地点を移動することにしていた。また、採取作業を開始すると、船体がサクションパイプのある左舷側に傾斜するので、一等航海士を前部甲板に設けられている揚荷用ジブ式クレーンの操縦室に配置し、グラブバケットを吊したままのジブブームを右舷側に振り出させ、船体の状態を常にアップライトに保つようブーム角度を調整させていた。
こうして、A受審人は、総員で採取作業に当たっていたところ、07時05分ごろから雨ともやで視程が1海里弱となり、その後雨も強まり、視程が更に悪化し、一時は200メートルぐらいとなったが、当時は昼間で、法定の形象物を掲示しており、航行船は錨泊中の自船を避けてくれるので大丈夫と思い、レーダーなどを活用して周囲の見張りを厳重に行うことなく、法定の灯火を表示せず、さらに、1分間を超えない間隔で急速に号鐘を約5秒間鳴らすという、法定の霧中信号も行わないで作業を続けた。
07時23分半A受審人は、092度に向首していたとき、右舷船首30度1.1海里にソナムNo.8(以下「ソナム」という。)のレーダー映像を視認でき、その後も方位が変わらないまま接近してきたが、レーダーによる見張りが不十分で、このことに気付かず、接近してくる同船に対して衝突の可能性を警告するための汽笛信号も行わなかった。
一方、B指定海難関係人は、船首部においてA受審人からの指示を待ちながら、倉内の状況や周囲の見張りも兼ねて行っていたところ、07時32分右舷船首30度約550メートルに、自船船首に向けて来航するソナムの船体を初めて認め、その接近状況を見守っているうち、同船が避航の気配を見せずに接近することに不安を覚え、同時34分少し前急ぎ操舵室に向かい、昇橋して事態をA受審人に報告した。
A受審人は、B指定海難関係人の報告を受け、右舷船首近くにソナムを初めて認め、あわてて汽笛を連吹したが及ばず、ソナムは、左回頭しながら接近し、07時35分前示錨泊地点において、092度を向首した長浜丸の船体とほぼ平行となったとき、同船の張り出したジブブームに、ソナムの船首マストが前方から衝突するとともに両船の右舷側が接触した。
当時、天候は雨及び霧で風力3の東南東風が吹き、視程は約550メートルで、潮候は上げ潮の初期であった。
また、ソナムは、船尾船橋型貨物船で、船長C及び二等航海士Dほか12人が乗り組み、自転車など230トンを積載し、船首1.00メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、同月28日03時40分大阪港を発し、朝鮮民主主義人民共和国南浦港に向かった。
C船長は、船橋当直を自らを含め2人の航海士と3直4時間交替制とし、それぞれに1人ずつの見張員を付け、翌29日06時00分関門港東口付近で昇橋して操船の指揮に当たり、関門航路を西行し、同時55分台場鼻灯台から314度900メートルのところでD二等航海士に船橋当直を委ねた。
その際、C船長は、当時小雨が降っており、低気圧の接近も予測されていたが、視界がそれほど悪くなかったので、D二等航海士に視界制限状態時の船長への報告を指示しないまま、次の針路が302度であることを示しただけで降橋した。
07時12分少し過ぎD二等航海士は、関門航路を出て六連島灯台から020度1,640メートルの地点に達したとき、針路を302度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、引き続き航行中の動力船の灯火を表示して8.6ノットの対地速力で進行した。
間もなくD二等航海士は、雨が強まり、視程が550メートルばかりになったが、C船長に報告しないまま、見張員を左舷ウイングで見張りに従事させ、自らは3海里レンジに設定したレーダーの監視に当たったが、レーダーの調整が不十分で周囲の状況が判別できず、07時23分半大藻路岩灯標から096度1.7海里の地点に達したとき、不安になって機関を半速力前進とし、その後霧中信号を行わないで、5.5ノットの対地速力で続航した。
そのころD二等航海士は、レーダーにより正船首方向1.1海里のところに長浜丸の映像を認めることができ、その後同船と著しく接近することが避けられない状況となったが、レーダーによる見張りが十分でなく、このことに気付かないまま、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止める措置をとらないまま進行した。
07時32分D二等航海士は、見張員からの報告で船首方向550メートルばかりに長浜丸の船体を初めて視認し、その動静が判断できないまま続航中、同時34分ごろ長浜丸が船首を右方に向けていることを認め、ようやく自らが手動操舵に切り替えて左舵一杯をとって回頭中、原速力のまま船首が272度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、長浜丸は、ジブブームを曲損したほか右舷中央部外板に擦過傷及びブルワークに曲損を生じ、ソナムは前部マストが倒壊したほか鋼製ハッチカバーが損壊したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界が制限された関門海峡西口の藍島北方沖合において、北上中のソナムが、霧中信号を行わず、レーダーによる見張りが不十分で、長浜丸に著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、錨泊中の長浜丸が、法定の灯火を表示せず、号鐘による霧中信号を行わなかったばかりか、見張り不十分で、接近してくるソナムに対して衝突の可能性を警告する汽笛信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、霧と雨で視界が制限された関門海峡西口の藍島北東方沖合に設けられた砂利採取海域において、錨泊して砂利の採取作業を行う場合、法定の号鐘による霧中信号を厳重に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、錨泊して作業中の自船を航行船が避けてくれるものと思い、号鐘による霧中信号を行わなかった職務上の過失により、自船の存在とその状態をソナムに気付かせることができずに同船との衝突を招き、長浜丸の振り出していたジブブームを損壊させたほか、右舷側外板に擦過傷及び同舷ハンドレールに曲損を生じさせ、また、ソナムの前部マストなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。