(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月8日08時58分
鳥取県 美保湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五井上丸 |
漁船田子丸 |
総トン数 |
1.5トン |
0.99トン |
全長 |
8.59メートル |
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登録長 |
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4.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
54キロワット |
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漁船法馬力数 |
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30 |
3 事実の経過
第五井上丸(以下「井上丸」という。)は、固定式刺し網漁業に従事する船体後部に操舵室を備えたFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船尾部に約50キログラムの刺し網を載せ、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年8月8日08時50分鳥取県皆生漁港を発し、同港から東北東約1.5海里の刺し網漁場に向かった。
A受審人は、操舵室にある舵輪後方に立って見張りにあたり、08時53分半美保関灯台から173度(真方位、以下同じ。)6.3海里の地点に達したとき、針路をGPSプロッタに記憶させていた漁場に向けて069度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力(以下、速力は対地速力である。)で、手動操舵により進行した。
08時55分A受審人は、美保関灯台から170度6.2海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルのところに田子丸を初認し、接近するに従って同船全体をはっきり視認できるようになり、同時56分半正船首500メートルのところに陸岸の方を向いて漂泊している同船を認めるようになり、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、もう少し近づいてから避けようと思い、先に船尾甲板上に積載していた刺し網の一部が船外に垂れ下がっていたので舵輪から手を離して船尾方を向いて取り込みを行い、さらにGPSプロッタ画面で予定進路線上にいることを確めるなどし、田子丸を避けることなく、同じ針路のまま続航中、同時58分少し前前方を見回したとき、船首方至近の船首死角に隠れた田子丸に気付かないでいるうち、08時58分美保関灯台から165度6.1海里の地点において、井上丸は、原針路、原速力のまま、同船の船首が田子丸の右舷後部にほぼ直角に衝突して乗り切った。
当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかで、視界は良好であった。
また、田子丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船長B(大正11年3月3日生)が1人で乗り組み、同日05時30分皆生漁港を発し、衝突地点付近に至って機関を止め、漂泊しながら釣りを開始した。
B船長は、南東方に向首して漂泊中、08時56分半右舷正横500メートルのところに井上丸を認めることができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近したものの、船外機を前進にかけて移動するなど衝突を避けるための措置をとらず、田子丸は、その船首が159度に向いた状態で前示のとおり衝突し、転覆した。
衝突の結果、井上丸は船首部に擦過傷及び推進器翼の欠損を生じ、田子丸は右舷後部舷側に亀裂を伴う損傷及び船外機の損傷を生じ、B船長が脳挫傷により死亡した。
(原因)
本件衝突は、鳥取県美保湾において、井上丸が漁場に向けて航行中、前路で漂泊中の田子丸を避けなかったことによって発生したが、田子丸が衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鳥取県美保湾において、漁場に向けて航行中、前路で漂泊中の田子丸と衝突のおそれがある態勢で接近する場合、速やかに同船を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、もう少し近づいてから避けようと思い、先に船尾方から垂れ下がった網の取り込みなどを行い、速やかに同船を避けなかった職務上の過失により、田子丸との衝突を招き、井上丸の船首部に擦過傷及び推進器翼に欠損を生じ、田子丸の右舷後部舷側に亀裂を伴う損傷及び船外機の損傷を生じ、B船長を死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。