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平成11年神審第126号
件名

漁船寿丸漁船第5米栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西田克史、内山欽郎、西山烝一)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第5米栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
寿丸・・・右舷船首部外板に破口を伴う亀裂
米栄丸・・・右舷中央部を大破、のち廃船

原因
米栄丸・・・灯火不表示

主文

 本件衝突は、錨泊中の第5米栄丸が、所定の灯火を表示していなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年4月30日19時25分
 石川県七尾南湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船寿丸 漁船第5米栄丸
総トン数 3.0トン 2.94トン
全長 12.14メートル  
登録長   8.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 70

3 事実の経過
 寿丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人と同人の妻の2人が乗り組み、刺網漁を行う目的で、船首0.25メートル船尾0.55メートルの喫水をもって、平成11年4月30日15時40分石川県鹿島郡能登島町佐波の自宅前桟橋を発し、同桟橋西南西方沖合の七尾西湾に向かった。
 A受審人は、七尾西湾で2時間ばかり操業して東方の漁場に移動し、18時20分七尾南湾に至って再び操業したのち、漁を終えて帰途に就くこととし、所定の灯火を表示するとともに、妻に漁獲物の選別作業を後部において行わせるため、船尾端に備えた後部甲板上を照らす傘付きの作業灯3個を点灯し、操舵室後ろの左舷甲板上に立って操船に就き、19時23分半少し過ぎ能登島灯台から237度(真方位、以下同じ。)1.35海里の地点を発進し、針路を約1海里先に見える佐波の街明かりに向く315度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 発進時、A受審人は、正船首780メートルのところに錨泊中の第5米栄丸(以下「米栄丸」という。)が存在し、その後同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近することとなったが、米栄丸が錨泊中を示す灯火(以下「錨泊灯」という。)を表示せず、無灯火であったため、同船の存在及びその状態を認めることができないで続航した。
 A受審人は、操舵室の前窓を通した見張りだけでなく、同室より左方に顔を出して前路の見張りを行いながら進行中、19時25分わずか前船首至近に米栄丸の黒影を初めて視認したが、どうすることもできず、19時25分能登島灯台から253度1.5海里の地点において、寿丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、米栄丸の右舷中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期に当たり、日没時刻は18時39分月出時刻は18時14分で、月齢13.8の月が東南東方13度の高度にあった。
 また、米栄丸は、船体後部寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人と同人の妻の2人が乗り組み、刺網漁を行う目的で、同漁に使用する小船を曳航し、船首0.20メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、同日16時20分石川県七尾港西部の石崎漁港を発し、同漁港北東方沖合の七尾南湾に向かった。
 B受審人は、16時45分寺島の南西岸沖合の、前示衝突地点で機関を止め、水深約6メートルの海底に船首から4爪錨を投じ、直径3センチメートルの化学繊維製錨索を延出し、錨泊中の形象物を掲げないで、船首を北東方に向けた状態で錨泊した。
 ところで、B受審人は、平素から刺網漁の際、漁場近くで風や潮流の影響が少ない泊地を選んで米栄丸を錨泊させたのち、小回りの利く小船に乗り替えて目的の漁場に向かい、操業途中で日没近くになれば一旦米栄丸に戻って夕食を取り、その後再び漁場で操業したのち、米栄丸に帰船していた。
 錨泊後、B受審人は、妻とともに小船に移乗し、錨泊地点とは反対側に当たる寺島北東岸沖合の漁場において、夜中まで操業する予定であったものの、日没まで2時間近くあって周囲が明るいので、夕食のため米栄丸に戻ったときに錨泊灯を点灯するつもりで同船を離れ、目的の漁場で操業を開始した。
 その後、B受審人は、日没間近となったが、遅れ気味であった網の揚収作業に気を奪われ、米栄丸に戻って錨泊灯を表示することなく、操業を続けた。
 19時23分半少し過ぎB受審人は、寿丸が右舷正横780メートルのところから、米栄丸に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したものの、同船の存在を示すことができないでいるうち、米栄丸は、045度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、衝撃音を聞いて異常を感じ、急いで米栄丸に戻り、19時30分衝突の事実を知り、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、寿丸は、右舷船首部外板に破口を伴う亀裂を生じたが、のち修理され、米栄丸は、右舷中央部を大破し、のち廃船処理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、石川県七尾南湾において、無人で錨泊中の米栄丸が、所定の灯火を表示していなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、七尾南湾において、米栄丸を無人で錨泊させたうえ、引いてきた小船に乗り替え米栄丸から離れて操業中、日没間近となった場合、接近する他船が米栄丸の存在とその状態とを認識することができるよう、米栄丸に戻り、錨泊灯を表示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、網の揚収作業に気を奪われ、錨泊灯を表示しなかった職務上の過失により、夜間、寿丸に米栄丸の存在を気付かせることができずに寿丸との衝突を招き、同船の右舷船首部外板に破口を伴う亀裂を生じさせ、米栄丸の右舷中央部を大破して全損させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、夜間、前方に無灯火船の存在を予測し得ないまま、肉眼の見張りを行う場合、衝突の直前まで米栄丸を視認できない状況であったから、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:41KB)





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