(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年4月10日00時12分
和歌山県潮岬南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船神珠丸 |
貨物船グローリーチャレンジャー |
総トン数 |
4,409トン |
15,660トン |
全長 |
141.75メートル |
159.92メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
6,619キロワット |
6,156キロワット |
3 事実の経過
神珠丸は、船尾船橋型鋼製ロールオン・ロールオフ貨物船で、A受審人及びB受審人ほか11人が乗り組み、雑貨積みシャーシ53台708トンを積載し、船首5.21メートル船尾6.44メートルの喫水をもって、平成11年4月9日16時45分大阪港を発し、宮城県塩釜港仙台区に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直体制を航海士と甲板部員各1人による4時間3直制と定め、午前午後とも0時から4時までを二等航海士に、4時から8時までを一等航海士に、及び8時から12時までを三等航海士にそれぞれ行わせることとし、また、機関室当直体制を08時から17時までの間だけ機関士が入直し、夜間は無人として必要なときは定められた当番が対応するように定めており、発航操船に当たったのち、友ケ島水道通航後も在橋し、22時過ぎ三等航海士に船橋当直を委ね、自室に退き休息した。
23時55分昇橋したB受審人は、翌10日00時00分潮岬灯台から185度(真方位、以下同じ。)4.6海里の地点において、三等航海士と船橋当直を交代し、所定の灯火を表示し、針路を070度に定め、機関を全速力前進にかけ、海流に乗じて16.9ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で、自動操舵により進行した。
00時03分B受審人は、左舷正横後2度1.2海里のところに、同航中のグローリーチャレンジャー(以下「グ号」という。)が表示した白、白、緑3灯を初めて視認し、その後自船より速力が遅いものと判断して続航した。
00時06分B受審人は、潮岬灯台から164度4.1海里の地点に達したとき、自動減速警報が鳴り、機関が微速力前進になって次第に自動減速したが、反航船に気を取られ、グ号に対する動静監視を十分に行わず、13.7ノットの平均速力となって進行し、同時07分自動減速時のマニュアルに従い、甲板部員を手動操舵に当たらせ、レーダーマストに紅灯2個を表示し、三等航海士に船長報告を指示した。
00時08分B受審人は、潮岬灯台から158度4.1海里の地点に達し、速力が10.5ノットで一定となったとき、グ号が左舷正横後31度960メートルに近づき、その後同船が自船を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然このことに気付かず、警告信号を行うことも、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま続航した。
00時10分A受審人は、機関が自動減速した旨の報告を受けて昇橋したものの、視認した反航船を監視したり、速力や舵効きに注意が向き、B受審人からも報告がなかったので、左舷後方480メートルのところから接近中のグ号に気付かなかった。
00時12分わずか前A受審人は、左舷後方至近に、グ号の表示した白、白、緑3灯を初めて認め、左舷ウイングに出て右舵一杯を令したが及ばず、00時12分潮岬灯台から148度4.2海里の地点において、神珠丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船尾部と、グ号の右舷船尾部とが、20度の交角をもって衝突した。
当時、天候は曇で風力7の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、東方に流れる1.9ノットの海流があった。
また、グ号は、船尾船橋型鋼製貨物船で、船長F及び二等航海士Gほか19人が乗り組み、鉄鋼製品16,924.4キロトンを積載し、船首8.50メートル船尾9.05メートルの喫水をもって、同月9日15時52分大阪港を発し、アメリカ合衆国バンクーバー港に向かった。
F船長は、18時45分友ケ島水道南方で水先人を下船させたのち、当直航海士に船橋当直を委ね、降橋して休息した。
翌10日00時00分甲板部員とともに船橋当直についたG二等航海士は、潮岬灯台から197度2.9海里の地点において、所定の灯火を表示し、針路を113度に定め、機関を全速力前進にかけ、海流に乗じて16.0ノットの速力で、自動操舵により進行した。
定針したときG二等航海士は、ARPA付きレーダーで、右舷船首54度1.8海里のところに、神珠丸の東航模様を認め、同装置により、00時03分同船の方位が少し前方に変化し、最接近距離が減少していることを認め、同時04分甲板部員を手動操舵に当たらせ、同時06分潮岬灯台から170度3.5海里の地点に達したとき、神珠丸が減速したことを知り、針路を095度に転じて間もなく、同船の船尾灯だけを視認するようになった。
00時08分G二等航海士は、潮岬灯台から161度3.7海里の地点に達し、神珠丸が右舷船首34度960メートルになったとき、同船の方位に変化がなくなったことを認めたが、船間距離についての動静監視を行わなかったので、自船が神珠丸を追い越し、その後衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、早期に左転するなど同船の進路を避けずに続航し、同時10分半自船の船首部に神珠丸の左舷船尾部が間近に迫り、ようやく衝突の危険を感じ左舵一杯としたものの、すでに間に合わず、左転中の右舷船尾部が同船の左舷船尾部に接近するのを認めて右舵一杯としたが効なく、グ号は、050度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、神珠丸の左舷船尾外板に凹損を、グ号の右舷船尾外板に凹損と救命艇甲板に損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、和歌山県潮岬南東方沖合において、神珠丸を追い越すグ号が、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、神珠丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、和歌山県潮岬南東方沖合を東航中、左舷後方に同航中のグ号を視認したのち、機関が自動減速した場合、速力が変更されたのであるから、同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう、その後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、反航船に気を取られ、その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自船を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近してくるグ号に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して同船との衝突を招き、自船の左舷船尾外板に凹損を、グ号の右舷船尾外板に凹損と救命艇甲板に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、同人が昇橋してから衝突するまで、グ号に対する認識、判断、操作に移る時間的余裕がなかったから、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。