(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月18日00時03分
神戸港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
押船ツカサ5 |
バージツカサIII |
総トン数 |
19トン |
1,230トン |
全長 |
13.40メートル |
57.00メートル |
幅 |
|
13.00メートル |
深さ |
|
4.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
882キロワット |
|
船種船名 |
貨物船シーバイロ |
総トン数 |
17,172トン |
全長 |
172.026メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
6,650キロワット |
3 事実の経過
ツカサ5(以下「ツカサ」という。)は、鋼製引船兼押船で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首1.1メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、船首0.7メートル船尾2.0メートルの喫水となった空倉の非自航式鋼製バージツカサIII(以下「バージ」という。)の船尾凹部に、船首を押し付けてワイヤ等で結合し、全長約58メートルの押船列(以下「ツカサ押船列」という。)を形成し、山土積載の目的で、平成11年8月17日17時00分徳島県富岡港を発し、神戸港に向かった。
A受審人は、22時37分関西国際空港沖F灯標(以下「空港沖F灯標」という。)から287度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点において、針路を035度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で、法定灯火を表示し、バージの船橋に移り、単独の船橋当直に就き、自動操舵により進行した。
このころ、A受審人は、正船首方10.0海里のところに明るい灯火を多数点灯したシー バイロ(以下「シ号」という。)を初めて認め、その灯火模様と静止している様子から、錨泊中の船舶と判断したのち、船橋内が蒸し暑いので、左舷側ウイングにいすを出して腰掛け、同船を近距離になってから避けるつもりで北上した。
A受審人は、いすに腰掛けたまま両腕をブルワークに覆いかぶさるように載せた姿勢で当直を続けていたところ、23時00分空港沖F灯標から326度4.1海里の地点に達し、シ号に正船首方7.3海里に接近したとき、近距離を航行する船舶が見当たらないことから気が緩み、眠気を感じるようになったが、いずれシ号を避けなければならないので、居眠りすることはあるまいと思い、いすから立ち上がって眠気を払拭するなり、休息中の乗組員を呼び上げて補佐させるなりして、居眠り運航の防止措置をとることなく、眠気をこらえながら同じ姿勢で続航した。
23時50分わずか過ぎA受審人は、神戸灯台から155度5.6海里の地点に達し、シ号に正船首方1.5海里に接近したころ、いすに腰掛けたまま居眠りに陥り、同船を避けることができないまま進行し、翌18日00時03分神戸灯台から140度5.0海里の地点において、ツカサ押船列は、原針路、原速力のまま、バージの船首がシ号の右舷船首に、前方から46度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南寄りの風が吹き、視界は良好であった。
また、シ号は、船尾船橋型の貨物船で、船長B及び二等航海士Cほか24人が乗り組み、銅鉱石2,411トンを載せ、船首9.2メートル船尾9.4メートルの喫水をもって、同月9日16時05分(現地時間)シンガポール港を発し、岡山県日比港に向かい、内海水先区水先人乗船の時間調整の目的で、同月17日16時55分衝突地点付近に左舷錨を投じ、錨鎖6節を延出して錨泊した。
B船長は、法定の形象物を掲げさせたのち、航海士を含む3人の船橋当直員を配して錨泊当直に当たらせ、18時30分日没間近となったので、法定の錨泊灯を表示させたほか、多数の作業灯を点灯させた。
翌18日00時00分半当直中のC二等航海士は、船首を169度に向けて錨泊していたとき、ツカサ押船列の白、白及び両舷灯を右舷船首46度560メートルのところに初めて視認し、動静を監視したところ、避航動作をとらずに自船に向首したまま接近するので、衝突の危険を感じ、同押船列に向けて携帯発光信号器を発光させて注意を喚起したが、シ号は、船首を169度に向け、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ツカサ押船列はバージ船首上部に曲損を、シ号は右舷船首上部に破口を伴う凹傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、神戸港南方沖合において、ツカサ押船列が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中のシ号を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、神戸港南方沖合において、単独の船橋当直に就き、同港に向かって北上中、左舷側ウイングにいすを出して腰掛け、両腕をブルワークに覆いかぶさるように載せた姿勢で見張りに当たっていたところ、眠気を感じた場合、居眠り運航とならないよう、いすから立ち上がって眠気を払拭するなり、休息中の乗組員を呼び上げて補佐させるなりして、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれシ号を避けなければならないので、居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、同船を避けることができないまま進行してシ号との衝突を招き、ツカサ押船列のバージ船首上部に曲損を、シ号の右舷船首上部に破口を伴う凹傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。