(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月6日16時20分
伊豆諸島御蔵島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船吉祥丸 |
漁船第二十八幸福丸 |
総トン数 |
91.42トン |
74.67トン |
全長 |
34.00メートル |
34.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
294キロワット |
3 事実の経過
吉祥丸は、底はえ縄漁に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか6人が乗り組み、船首1.3メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、操業の目的で、平成12年3月31日08時ごろ静岡県下田港を発し、伊豆諸島御蔵島東南東方約15海里の漁場に向かい、15時ごろ漁場に至り、同日夜から操業を開始した。
ところで、御蔵島東南東方における底はえ縄漁は、夜半から翌日正午ごろまで操業を行い、操業を終えたところで西方に潮のぼりをして漁場を変え、次の操業まで漂泊して待機する形態をとるもので、吉祥丸では、待機中の見張りは、A受審人が操舵室内で休息していることから、時折起きあがってレーダーを使用するなどして行っていた。
こうしてA受審人は、操業を続け、翌月6日10時30分操業を終えたところで、潮のぼりを行い、15時50分御蔵島御山851メートル頂(以下「御山山頂」という。)から125度(真方位、以下同じ。)3.7海里の地点に至って主機を停止し、付近の同僚各船に無線でこのことを連絡して漂泊を始め、その後、船首を025度に向け、1.5ノットの北東に向かう海流と折からの北北西風による風圧とにより、100度方向に1.7ノットで流されながら漂泊を続けた。
A受審人は、16時10分御山山頂から122度4.2海里の地点に達したとき、右舷船首20度0.8海里に第二十八幸福丸(以下「幸福丸」という。)が存在していたが、他の船舶が漂泊している自船を避けるので大丈夫と思い、他船の存在を調べるなど、周囲の状況に対する配慮を十分に行うことなく、見張員を配置せず、食事を摂るために船橋を離れることとして一段下方の食堂に赴いた。
16時17分A受審人は、幸福丸が右舷船首20度500メートルの地点に方位が変わらず接近していたものの、依然周囲の状況に対する配慮不十分で、見張員を配置しないでいてこのことに気付かず、同船に対して警告信号を行うことができないまま漂泊中、16時20分御山山頂から120度4.5海里の地点において、幸福丸の船首が、吉祥丸の右舷船首部に後方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、視界は良好で、付近水域には1.5ノットの北東流があった。
また、幸福丸は、底はえ縄漁に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか7人が乗り組み、船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、操業の目的で、平成12年4月3日13時ごろ下田港を発し、伊豆諸島御蔵島東南東方約12海里の漁場に向かい、21時ごろ漁場に至り、同日夜から操業を開始した。
越えて同月6日12時30分B受審人は、操業を終え自ら操船して潮のぼりを行い、15時20分御山山頂から079度6.1海里の地点で、針路を235度に定め、機関を5ノットの半速力前進にかけ、海流と風圧とにより218度方向に4.0ノットの対地速力となって自動操舵で進行し、そのころ、レーダーで先行する吉祥丸の存在を探知してから、操舵室出入口開き戸の錠の修理を思いついてこれに取りかかった。
15時50分御山山頂から095度4.8海里の地点で、B受審人は、吉祥丸からの連絡を受けてレーダーを見たところ、ほぼ正船首2.5海里に同船の映像を探知し、航過距離に余裕をもたせることとして針路を225度に転じ、その後、海流と風圧とにより205度の方向に4.2ノットの対地速力となって続航した。
B受審人は、16時10分御山山頂から112度4.5海里の地点に達したとき、ほぼ正船首方向0.8海里に圧流されている吉祥丸を視認できる状況にあったが、先のレーダーによる映像探知で、同船が北上していても衝突のおそれの生ずるほど接近する船舶ではあるまいと思い、同船の動静監視を十分に行うことなく、前示の作業を続けた。
16時17分B受審人は、吉祥丸がほぼ正船首方向500メートルの地点に方位が変わらず接近していたものの、依然動静監視が不十分でこのことに気付かず、同船を避けないまま進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、吉祥丸はラインホーラ及び右舷舷灯が損壊するとともに右舷中央部ブルワーク等に損傷を、幸福丸は右舷船首部に亀裂及び擦過傷を生じ、のち、いずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、伊豆諸島御蔵島南東方沖合において、漂泊中の吉祥丸と南下中の幸福丸とが接近した際、幸福丸が、動静監視不十分で、漂泊している吉祥丸を避けなかったことによって発生したが、吉祥丸が、他船の存在を調べるなど、周囲の状況に対する配慮不十分で、見張員を配置せず、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、伊豆諸島御蔵島南東方沖合において、風潮流により圧流されている吉祥丸を視認できる状況の場合、同船と接近するかどうか判断できるよう、その動静監視を十分にすべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同船が北上していても接近する船舶ではあるまいと思い、動静監視を十分にしなかった職務上の過失により、吉祥丸を避けずに進行して同船との衝突を招き、吉祥丸のラインホーラ及び右舷舷灯に損壊並びに右舷中央部ブルワーク等に損傷を、また、幸福丸の右舷船首部に亀裂及び擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
A受審人は、伊豆諸島御蔵島南東方沖合において、漂泊している場合、他船の存在を調べるなど、周囲の状況に対する配慮を十分にすべき注意義務があった。しかしながら、同人は、他の船舶が存在しても漂泊している自船を避けるので大丈夫と思い、周囲の状況に対する配慮を十分にしなかった職務上の過失により、見張員を配置せず、幸福丸に対して警告信号を行うことができないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。